農林族: 田んぼのかげに票がある (文春新書 146)

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  • 文藝春秋 (2000年12月1日発売)
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感想 : 3

NHK解説委員である著者が、戦後日本の農業政策について、族議員を視点の中核にすえて説明したもの。内幕を暴露する話も多い。例えば、平成7年葉タバコ審議会では族議員の圧力・恫喝がすさまじく、翌8年からは故松岡利勝等が暗躍し、生産者価格が据え置かれただけでなく、審議会の権限自体も形骸化させた、ということが暴露されている。また、中空知の衆議院議員選挙戦において、鈴木宗男による公共事業誘致優先の選挙戦のありようも細かく書かれている。極めつけは昭和61年頃の生産者米価決定をめぐる問題である。
米価据置きを目指す農協側は、当該案に議員に賛成するかどうかの踏み絵を踏ませ、議員側を屈服させた上、当時の中曽根総理の裁定で米価は据え置かせた。ところが、これに国民は農政・農協不満を募らせる結果となり、結果的には国民の後押しという味方を失った、というものである。このような政治の淵源の一つとして、河野一郎のバラマキ農政、田中角栄の短視眼的で土建国家的な農業政策にあると著者は考えているように読める。
しかし、そのような農政は一定の転換を見せているともいう。斡旋利得罪の制定や農政を取り仕切るキャリア官僚・某課長補佐の逮捕などがそれだ。あるいは、農道空港の挫折・竹下死去に伴う中海干拓の中止等もそれとする。加えて、土地改良工事における地方・農民側の負担も大きく、従前と同様の政策を農民自身が望んでいない可能性にも言及している。
このような農業政策は、将来の発展性を見越して行われているかは、疑問とせざるを得ないが、農産物を高付加価値商品として対外的に輸出するというような夢を語れる農業政策を見てみたいものだ。なお、議員が特定の組織に頼りきって選挙を戦う構図を成立させているのは、選挙区が狭すぎる(定数が多すぎる)からではないのか、という疑問が頭をよぎる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月14日
読了日 : 2017年1月14日
本棚登録日 : 2017年1月14日

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