ヘタレ侍緒方章と男装の美剣士左近が繰り広げる事件帳シリーズ。「禁書売り」の続編にしてこの巻を持って終了するのですが、非常にそれが惜しまれる一冊です。前作同様に多くの要素を緻密なバランスの元に配置しながら浪花の街を疾走する章と左近なのですが、二人の距離がだいぶ近づいてきて、互いに魅かれあいながらも決してその本心を言わない(言えない)まま、もどかしい心象風景の中で各話が進んでいきます。その隔靴掻痒ぶりと切なさが同居している点はある意味青春小説とも言えましょう。
特に最終話「蘭方医」では二人のそれぞれの想いがクライマックスに達し、ドラマでの栗山左近以上にツンデレな「とにかく、早く江戸へ行けよ。しつこく目の前をうろうろされるとこっちも迷惑だ」という一言で幕を閉じるのですから、これはもう読むものが次の話を期待せざるを得ません(左近が元々江戸生まれという伏線もあるので。。。)。
時代小説であり、同時に極上のエンターティメントに仕上がっている点はまさに「大衆娯楽小説」の基本であり、他の築山桂さんの作品も読んでみたいという衝動に駆られてしまうのです。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
時代小説
- 感想投稿日 : 2012年10月28日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2012年10月28日
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