春画のからくり (ちくま文庫 た 58-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (2009年4月8日発売)
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感想 : 13
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一昨年から昨年にかけて大英博物館で開催された春画展。日本ではこれまでほぼ禁忌事項の如く扱われ日の目を見ることは無かったが、あまりの反響の大きさに、ついに今年開催。現在12月までの日程で開催中。僕もこの間見てきたけれど、美しさや面白さに目を奪われると同時に、江戸以前の倫理観が如何に現代と違うのかについて衝撃を受けた。今我々が盲目的にフォローしている倫理観は、実は明治以降に新政府によって植え付けられたものだったと言えるのでは無いか、とその時感じたのだが、この本を読んで益々その思いを新たにした。
というか観に行く前に読んどけばよかった…。現法政大学総長で、江戸文化研究の第一人者である田中優子教授の春画に関する過去5本の論文を再構成して判りやすく文庫化したこの本は、春画を通じて平安以降の日本の性愛観や置かれていた状況を、ひとつひとつ図版を使って丁寧に解説されている。文庫で白黒、尚かつ図版が小さいが、ここで取り上げられている多くの作品は大英博物館の所蔵作品で、つまり今回の春画展で公開されているものが多い。だからそういう意味でも、読んでから行くべきだったと大公開。
個人的に一番興味深かったのは、源氏物語、平家物語からスタートする「テクスタイルとしての布」と「隠すことによって強調する」という手法に関する教授独特の観点。これ、実物の絵を見てこの本を読むと良くわかるんだけど、特に江戸中期以降の春画については、露出がどんどん少なくなり(基本的にピーク時の春画は結合している性器のみが露出されている)、その分着衣を効果的に用いて隠すことで、結合行為から野暮ったさを排除したり、逆にそれを強調して笑いにするなどの高度な手法が用いられていることを初めて認識した。どうしてこんなに露出が無いのにエロスなのかと思っていたのだが…。また、着衣も色んな描き方をされることで、周りの文化や題材の人々の階級、行為といったものが本当によく見えてくる。そして何より、春画はポルノとは違う。ポルノは基本的に男が女を観賞して楽しむというウエメセナ側面が捨てきれないと思う(違うのもあるんだろうが)。春画は男女一緒に楽しむ、と言うのが根本的に違うところ。
江戸期においては呉服屋と春画画家は持ちつ持たれつであり、呉服屋は春画画家の大発注主で、春画は呉服屋にとっては宣材でもあったと言うのも面白い。また、個人的には江戸時代において覗きという行為が笑いの対象で趣味にはならないというのも新鮮であった。考えてみれば江戸の町家に現代のような閉鎖的な空間は殆ど存在しなかったのだから、他人の性行為を簡単に目撃するのが当たり前というのは判らないでもないけど、想像したことは無かったな…。
春画展は年末12月23日まで開催中。今月いっぱいで前半が終了して、展示作品ががらっと入れ替わるので(会場である永青文庫が小さいので、展示作品数に限界が有ることが理由)、改めてもう一度後期観に行こう。しかし問題は、これ、おっさんひとりとかふたりで観に行くにはやはり抵抗のある展覧会なのだ。この前行ったときはこういうのを気楽に頼め、趣味の系統が同じほぼ唯一の友が一緒に行ってくれたけど、さてさて、まずはそこからか…?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文化・宗教
感想投稿日 : 2015年10月26日
読了日 : 2015年10月25日
本棚登録日 : 2015年10月25日

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