格差の壁をぶっ壊す! (宝島社新書 311)

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  • 宝島社 (2010年4月10日発売)
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世間で言われている格差なんて大して存在しない、もしくは、あっても気にする必要がない、という主張。
少なくとも、格差があるからと妬んだり卑屈になったりする必要はなく、周りにを気にせず自信をもって主体的に動けよ、というメッセージと受け取った。

いくつか疑問点はあった。

例えば所得格差の「カネがなくなって豊かな生活は出来る!」の項において、
『都内でも月収10万円あれば暮らしていけると思うし、著者自身やっていける自信がある。』という主張の部分。

確かに住居代も物価も安いところはある。
贅沢をしなければ十分に生きていけるのは確か。
ただ、「そこそこ幸せに生きていけるレベル」と、「健康的で、選択肢が豊富で、学習出来て、自由時間があって、未来に希望を持てる豊かさ」は大きく異なる。
所得格差が問題視されるのは、生きるか死ぬかとか、劣等感を感じ(させられ)つつも幸せに生きられるか否か、というレベルではなく、皆が「健康的で、選択肢が豊富で、学習出来て、自由時間があって、未来に希望を持てる豊かさ」というレベルに達することが出来ていないからだと思う。
なので、「そこそこ幸せに生きていけるんだから文句言うな。それ以上に行きたければ頑張れ」という態度はちょいと冷たすぎる。

また、「格差を埋める発想は要らない!」の項。

『自然淘汰されていくはずのものを保護するのはエゴに過ぎない。
エコロジー自体は悪い発想ではないが、地球が泣いている、は言いすぎ。
自然が破壊され水資源が枯渇しても人間が住みにくくなるだけ。』
という主張に関しては、環境破壊を軽視し過ぎていて賛同できない。
環境破壊はある閾値を超えると不可逆的になってしまう。
環境破壊や生態系への持続可能ラインを越えた悪影響は無視できない。
既に温暖化による異常気象の頻度と程度が高くなり、自然災害による被害が大きくなっている。
産業革命以前など昔と比べれば、自然災害による死者数や被害の程度は軽減している。これは確かに人間の技術の進歩ではある。
しかし自然、動植物、環境と可能な限り共存しながら生きていく方が心理的に豊かで、また犠牲も緩やかで済むはずだ。
環境が破壊されると人間が住みにくくなるだけではなく動植物への影響が果てしなく大きい。
人間は生きていくこと自体がエゴであることは否定できないが、三方よしのような、周りの生命、果ては地球を労わり、ともに成長し、生きていく形は不可能ではない。

さらに「道州制で日本を分割すべきだ!」の件。
『九州も朝鮮半島との間に海底トンネル作ってつなげれば九州が韓国と経済圏が一体化する。建設費は10兆円程度でいける。』とある。
また『東北・北陸圏は中国・ロシアとのつながりをもっと深めればいい。』と主張している点について、
イデオロギーに大きな差異があり、さらに中国に至っては規模・国力に巨大な差があるため、
深入りしすぎず、「付かず離れず」のスタンスを通すのがベストだと考えている。
基本的に、相手の利益も考えて共同でビジネスし、それにより社会を回復させるという考え方は良いと思う。
同じベクトルを向いて利害が一致している課題に関しては協力して解決するのがよいだろう。

道州制にするのであれ、結局はその自治体の気持ち次第となる。その自治体の総意としてどうしたいかを尊重する必要は当然出てくる。
その場合であってもやはり怖いのは、日本でありながら海外資本に買い占められ間接的に実効支配を強められる可能性が生じることだ。
中国に関しては圧倒的に人口差があるため、大勢の中国人(インド人でも同じことだが、)が日本の各自治体に移住してくることになると、やがては住民の意見を多く取り入れていくため、他意なくとも実質的に乗っ取られる、という懸念が生じる。
積極的に協働していく方針を取るのであれば、同時に守りも固めることが必須科目になる。

自治体とそこに住む人々に権限が与えられれば、それに応じて郷里に対する責任感は高まるであろう。
少なくとも、関係各国のイデオロギーの違いや、中国、アメリカが実施してきた、ないし実施している良い面と悪い面を両方とも中立的にしっかり学ぶことは欠かせない。もちろん、何を良しとし、何を悪しとするかも自己認知を高めなければならない。
反米も反中も反露も反朝も、いかんせん感情的になりすぎている。
プロパガンダやフェイクニュースが跋扈する時代だからこそ、学びと多文化に対する理解、そのためのコミュニケーションを押さえ、現状維持に甘んじず課題を解決していく必要がある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年6月14日
読了日 : 2022年6月2日
本棚登録日 : 2022年6月2日

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