扉の向こうに隠された世界 ザ・ホテル (文春文庫 ロ 3-1)

  • 文藝春秋 (1999年11月10日発売)
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感想 : 31
4

ここ最近、仕事で海外の人とやり取りをすることが増え、その度に驚かされるのが彼らのおおらかさというか、細かいことを気にしない寛容さというか……まあこう言ってしまっては何ですけど、ぶっちゃけ雑なんですよ雑!!

僕のこの印象は間違ってはいないようで、海外に住んでた人たちからも、いかに向こうの方々は大雑把で、たとえば飲食店なんかに行っても日本のサービスの半分も期待することは出来ない、なんて話はよく聞きます。

しかし、実際に存在するホテルを取材して書かれた本作を読んでいて思い出したのは、そうです。究極のサービスの形であるホテルというものを作り出したのもまた海の向こうの彼ら……。
この相反する事象は何を示すのだろう?と思いましたが、その答えは出てこなかったし、僕もそんなには気になりませんでした……。

まあそんなことはさておき、本作ではザ・ホテルを舞台に、様々な部門の仕事を担当するホテルマンたちが話ごとに代わる代わる主人公となって、通常、客は知ることのないホテルの運営の裏側で奔走する彼らの物語が次々と語られます。

それらは決して派手ではなく、地味な苦労の積み重ねなんだけど、しかし彼らの、どこまでもひたむきで常にプロフェッショナルであろうとする姿には胸を打たれます。
奇しくも昔、石ノ森章太郎の「HOTEL」を読んで、どんなに日の当たらない地味で辛い仕事でも、それがどこかで誰かの役に立っている限り存在する意味はあるのだということを学び、社会との折り合いの付け方というものを知った僕は、本作を読んで初心に返ったような気がしました。

特に印象的だったのは、どんな無茶な客の要求にもとりあえず応えようとするコンシェルジュの存在です。
正直、現代のコスト管理社会ではこんなサービスを維持することは不可能に近いことかもしれませんが、結果がどうあれ、否定から入るよりも肯定から入る姿勢は見習うべきだと思いました。

まあそんなこんなで感化されるところは多く、「そうだ! 全ての仕事の基本となるのはやはり質の高いサービスであり、その精神なのだ!」と開眼した僕は、勉強として早速高級ホテルに泊まってみようと考えたのですが、案の定価格面での敷居は高く、現実を突きつけられてしょんぼりとした気持ちになってしまいました。

内容についてちょっとだけ残念だったのは、個々のエピソードには派手さがなく、またそれぞれに繋がりもないため、「今日うちのホテルでこんなことあってさー」という紹介的な雰囲気に終始してしまっているような印象を受けたことです。
「小説」という意味では、1本メインストーリーのようなものがあって、それを追いかける形でホテル内の様々な出来事が繰り広げられる形になっていれば、より読み応えがあったかなーと思いました。

まあでも、あくまで現実にあったことを下敷きにしているからこその本作であり、何かドデカい事件を軸に据えるような形にしてしまうと、急に嘘臭さが出て、チープになってしまっていたのかもしれないような気もするのでやっぱりこのままでいいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション(海外)
感想投稿日 : 2013年3月7日
読了日 : 2013年3月5日
本棚登録日 : 2013年3月3日

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