蜜柑 (立東舎 乙女の本棚)

  • 立東舎 (2018年7月13日発売)
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本棚登録 : 471
感想 : 55
5

蜘蛛の糸、鼻、地獄変、羅生門、河童、杜子春、魔術など、どれも個性ある独特な非日常の世界観の作品が印象深い芥川龍之介
私はどれも大好きなのだが、この
【蜜柑】という作品はちょっとタイプが違う
日常の風景の些細なひとコマを切り取ったような素朴な作品であった

素朴な作品であっても、そこは芥川作品
【蜜柑】の印象的な光景が絵画みたいに心に焼き付くし心理描写や情景描写も素晴らしく短いストーリーでも、しっかりあったかい気持ちが残るような読後感

『私』(芥川)とそして13〜14歳の少女の列車内の物語
『私』の気持ちの移り変わりを丁寧に細やかに描いているところが特に巧みだなと感じた
もともと陰鬱な気分で列車に乗り込んでいた『私』の感情が、さらに少女のみすぼらしい姿や愚鈍な行動によって嫌悪感を抱き、イライラ感を加速させていく心理描写はリアルな感じを受けた

だが最後に、『私』が少女の【蜜柑】を使ったある行動をみることによって先程まで抱いていた気持ちを忘れることができる…

それはこの列車に乗っているこの少女は恐らく、奉公先へ赴こうとしているのでは?と、さらにこの少女の抱えている境遇とこれから先の苦労や不安な今の気持ちもあるだろうに…、などと『私』はそこではじめていろいろ想像したのだろう

それで少女の【蜜柑】を使った最後の行動だけで、この少女は家族に対する優しい思いを持っているのだろうとか、貧乏な身なりであっても心は美しくしっかりしているのだろう…と感じたのだろう

はじめの『私』は(顔も下品で服装も不潔だし、列車の二等と三等の区別もつかない愚鈍な小娘だと)さんざんな酷い気持ちでいたのが一瞬の出来事でそれが一変してしまう!!
列車の中でひとことも会話をすることない二人であったのだが、『私』の荒んだ心もそれによって癒やされたという場面で終わる。。。

やっぱり芥川龍之介作品!!
良いですね〜

げみさんの絵も素晴らしい!
見開きで横長にして、 列車の絵を効果的に 描いていて
特に【蜜柑】のシーンも躍動感があって
感動的でしたー

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月4日
読了日 : 2023年5月31日
本棚登録日 : 2023年5月31日

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