死の笑話集 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

  • 早川書房 (2004年11月10日発売)
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感想 : 2
5

ダルジール警視シリーズの第18作。その内2作は、翻訳されていないようなので、日本で発刊されているものでは16作目、ということは私が読んだ16作目のダルジール警視シリーズになる。この作品の本国イギリスでの発売は2002年である。シリーズ第1作が発刊されたのが、1970年のようなので30年以上続いている、これも超長寿シリーズだ。
面白いのは、このシリーズでは登場人物は、あまり歳をとらないことだ。他のミステリーの人気シリーズ、たとえばスペンサーシリーズやマット・スタガーシリーズでは、主人公を含めた登場人物は、シリーズが続くにつれて歳をとっていく。スペンサーはタフガイという設定なので、そういう中でシリーズを続けていくのは、けっこう工夫が必要になってくるだろうな、と思うのだけど、このダルジールシリーズでは、そういう工夫は不要。日本で考えれば、「サザエさん」みたいなものだ。カツオはいつまでも小学生だし、イクラちゃんはいつまで経っても赤ん坊のまま、それと同じである。
この本は、ハヤカワのポケミスで640ページを超える大作である。ポケミスの640ページというのは、かなり読みごたえがある。この作品が日本では2004年に翻訳・発刊されていたのは知っていたが、これまで読むのを躊躇していたのは、それも理由の1つである。ボリュームもさることながら、レジナルド・ヒルの文章は、時にトリッキー、時に重厚で、本当に作品を楽しもうと思ったら、読み飛ばす、という読み方が出来ないのだ。だから、何日かこの作品を集中して読める時間があり、かつ、集中力の持続に自信のある、要するに元気なときにしか手にとらないことにしているのである。『パスコーはシェフィールドが好きだった。美を見る目、刺激を嗅ぎつける鼻があり、バラエティを好む人なら誰でもシェフィールドが好きだ。ローマのように七つの丘の上に建てられているため、市境の内側にいるだけでも谷の春から峰の冬まで経験することができる』本文中からの引用である。
この作品の舞台の1つしてシェフィールドが登場する。シェフィールドはロンドンから北西に、電車で2-3時間の街、『ヨークシャーが、そしてイギリス北部全般が終わる』ところ。私は、シェフィールド大学に留学していた経験がある。シェフィールド大学も、この作品の舞台として登場しており、私自身は、そういう意味からも、この作品を、きわめて個人的に楽しめた。
作者のレジナルド・ヒルが描写するイングランドの気候風土・風景、作中の登場人物が交わすいかにもイギリス的なもってまわった会話、レジナルド・ヒルが用いる、これもいかにもイギリス的というか、イギリス英語的な言い回し、それらを本当に自然に翻訳されている訳者の松下祥子さんの文書、ストーリーとは別に、本当に引き込まれながら読むことが出来た。
雑感的なことばかり書いて、ストーリーに触れるスペースがなくなってしまった。非常にお勧めの1冊であるが、前作の「死者との対話」とストーリーが続いている部分があるので、読もうと思われる方は、前作から読まないと、訳のわからない部分があるので、ご注意。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2007年4月20日
読了日 : 2007年4月20日
本棚登録日 : 2007年4月20日

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