このエッセイは、もともと「夕刊フジ」に「飲酒者の自己弁護」というタイトルで連載されたものを集めたもので、1973年3月というから、38年前に新潮社から刊行されたもの。新潮社文庫版もあるようであるが、僕の読んだちくま文庫版が発行されたのは2010年10月。
筆者の山口瞳は、開高健と同じくサントリーの宣伝部に勤務。サラリーマン時代に書いた「江分利満氏の優雅な生活」で直木賞を受賞した作家。エッセイストとしての方が知られているのではないか、と思う。本書は、題名の通り、酒にまつわる(とばかりは言えないけれども、主として酒にまつわる、とは言える)話を集めたエッセイで、1話に1つ、山藤章二のイラストが付いている。
山口瞳の文章は味がある、としか言いようがないような文章だ。エッセイの中身も独特の味わいがあり、山口瞳をおちょくったような山藤章二のイラストとともに、何とも言えない雰囲気を出している。僕自身は友人知人と酒を飲みに行くのは嫌いではないけれども、お酒自体は弱くもないけれども強くもなく、そもそも特に好きなわけではない。自分のアパートで飲むこともなく、イスラムの禁酒国に行ったとしても、全く問題なく過ごせると思う。だから、山口瞳のように、酒なしではほとんど生きていけそうにない人については分からない。酒をやめたら、身体は健康になるかもしれないけれども、もうひとつの健康(要するにメンタル面だろう)を損なってしまうのだと思わずにいられない、というのが、山口瞳の言う、酒呑みの自己弁護だ。そうであれば、それは山口瞳にとっては、たまたま酒だったという話であり、別の人は別の拠り所を持って暮らしているのだ、と考えれば、それもそうかもしれないな、と思うだけだ。
- 感想投稿日 : 2011年4月2日
- 読了日 : 2011年4月2日
- 本棚登録日 : 2011年4月2日
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