戦国史の謎の一つといわれる豊臣秀吉と千利休の蜜月から確執・切腹に至るまでの関係が描かれています。利休本人の視点はなく、秀吉をはじめとした当時の戦国武将たちの視点から利休の姿を浮かび上がらせるという方式が採られています。
利休ものといえば利休の恋を物語の主軸に据えた『利休にたずねよ』をはじめとして数多もの作品が世に出ており、その全てに目を通したわけではありませんが、『天下人の茶』ではこれまでありそうでなかった新たな利休像が提示されているのではないかと思いました。またあの有名な事件についてもなかなか大胆な解釈がなされていたりして、歴史の一コマを教科書とは違う視点で見るような楽しさを味わうことができました。
もう一点、茶の湯の描写の中に何度も「侘び」という言葉が登場していますが、著者のモチーフである(と私が勝手に思っている)「人間の矜持」「滅びゆくもの」と絶妙にマッチしていたと思います。つまりいつもの伊東節を味わうことができたということで、その点でも良かったです。
さて直木賞はどうでしょう。これまで伊東さんは短編集ばかりのノミネートで、選考委員からは長編が読みたいといわれ続けてきましたが、今回は満を持しての長編です。ノミネートもこれで5回目ですし、版元も文春ということで、受賞しても不思議ではないと思います。(個人的には『巨鯨の海』のほうが好きだったりするのですが)
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
伊東潤
- 感想投稿日 : 2016年7月7日
- 読了日 : 2016年7月7日
- 本棚登録日 : 2016年7月7日
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