ドレス (河出文庫 ふ 18-2)

著者 :
  • 河出書房新社 (2020年5月7日発売)
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本棚登録 : 220
感想 : 11
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一番面白かったのは表題作「ドレス」。恋人が付けだした一風変わったイヤリングに語り手の青年が違和感を覚えるところから始まるお話で、男の自分が読んでも打算的でイヤなやつだなあと思いつつ、決してありがちな恋人同士の帰結にならないところが良かったです。二番手は巻頭のSF「テキサス、オクラホマ」。ドローンの保養所っていうのもなかなか無い発想ですが、そこからこういうグロテスクな結末にいくとは。「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」も妊娠と出産を扱ったSFで、夫である男の最後ばかりに目が行きがちですが、ジェンダーの問題も扱っている点が良いですね。本書ではこの三作が特に印象に残りました。
ジェンダー・フェミニズムを主題としている点が特徴的ですが、過去作から趣向はそれほど変わっておらず、藤野さんらしい奇想が詰まった作品集に仕上がっています。文章は以前よりも地の文が削られてスマートになっているように感じました。その上展開が予測不能なものばかりなので、よほど注意して読むか広い心を持って読むかしないと、物語についていけずに混乱する可能性があります(私の初読時はそうでした)。自分としては『おはなしして子ちゃん』ぐらいの分かりやすさがちょうど良かったので、藤野さんの深化についていけずに振り切られてしまいそうな予感を抱いているところですが、そのあたりも含めて実に藤野さんらしい一作だとは思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 藤野可織
感想投稿日 : 2020年8月16日
読了日 : 2020年8月16日
本棚登録日 : 2020年8月16日

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