2023.6.2 市立図書館
テレビで宮沢賢治についてのドキュメンタリー番組をたまたまやっていて、そういえば賢治の友人の保阪嘉内については少し前に梨木香歩さんが「本の旅人」に連載していたけれど(「きみにならびて野にたてば」)、あれはどうなったんだっけ、と思い出し、その連載はPR誌の休刊もあり、どうなったのかよくわからないのだけれど、梨木さんの参考資料ともなっていた(はずの)本を思い出したので予約を入れて借りてみた。
前半は賢治が保阪嘉内に送った手紙と保阪嘉内の手紙や日記や作品などからふたりの関係や気持ちの変化を読み解いていく作品で、高等学校時代のエピソードは梨木香歩さんの連載でも読んだ覚えがありどんどん読める。賢治と嘉内の両人やこの時代に限らず、跡取り息子と父親との相克はなかなか厳しいものがあるのだなと伝わってくるし、若い二人が理想に燃えて何者かになろうとしもがく姿は今ちょうど再放送している「あまちゃん」のアキとユイにもどこか重なるように思えた。
晩年のあたりを読んだときは、農民たちのよかれを思いつつ非力にして理想の実現にほど遠い現実に苦しむ賢治の姿が、地方の酒販店主として小売業のありかたを模索しつつさまざまなものを諦め絶望しつつ店も人生も畳んだ父の姿がオーバーラップしてやるせない気持ちになった。
これが著者の卒論(宮城学院女子大学)を増補したものだというからおどろく。妹トシ(の死)をあまりに軽く扱っている、作品と作者の人生を恣意的に寄せすぎているという異論もあるらしいが、妹との関係にせよ、親友との関係にせよ、完全な真実(宮沢賢治自身が認める正解)を知るのは不可能なのであるし、私にとってはひじょうに興味深く説得力もある解釈で、著者の解釈には感服した。賢治をめぐるキーパーソンとしては嘉内やトシ以外に実際には想い人がいた説などもあり、あの説この説に接した上で、もう一度自分なりに「銀河鉄道の夜」を読み直してみたいと思えた。
みずからの青春も重ねつつ宮沢賢治研究にうちこんだ著者自身、病を得て2010年に亡くなっている。梨木香歩は「きみにならびて野にたてば」で、(病を発症し命を落とした)菅原千恵子の一生を書き留めねばという個人的な思いが本作品の執筆動機の一つだと明記していたらしい(←個人的な記憶でなくネット上でみつけた情報)だけにそのへんの経緯もちょっと気になる。
- 感想投稿日 : 2023年6月2日
- 読了日 : 2023年6月15日
- 本棚登録日 : 2023年6月2日
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