1994年に行われた講義をもとに1996年に書かれた本だけあって、その後の20年以上にわたる研究を踏まえるともう少し新しい知見も出てきているのであろう。
ただし、そのような点を考慮に入れても、自己組織化と経済学の関係性をわかりやすく説明してくれるという意味で、非常に有益な本である。
前半で、比較的なランダムな立地配分から都市のような集積(秩序)が生まれるというシミュレーション(エッジ・シティモデル)や、都市の規模がべき乗法則に従うというジップ法則を概略的に説明し、後半ではその背景にある数学的な構造を、あまり数式に深入りすることなく、どちらかというと直感的に説明している。
個人的に興味深かったのは、企業の空間分布をフーリエ級数で捉え、企業集積の発生をシミュレーションしたモデルである。企業立地が様々な異なる周波数を持つフーリエ級数によってあらわされるとき、企業立地における正の波及効果(近接によるメリット)と負の波及効果(近接によるデメリット)を見ると、周波数の異なる様々な変動によって立地によるメリットデメリットの強さが異なるため、正の波及効果が負の波及効果を上回る形で表れるは周波数の波が強化されることにより、企業立地が集積していくというものである。
しかし、著者も述べているが、このような変動の波は理論家の頭の中だけにあるものであり、実際の都市の中で具体的にこの波動をコントロールしているものがあるとか、波動を計測してコントロールすることができるということまでを述べようとしているものではない。
自己組織化の経済学が、現時点(出版時点)ではまだ現象を説明するためのツールとして有益なのではないかという可能性を持っているといったレベルものであり、そこから何らかの政策的な含意を導き出すといったところまでは至っていないことも、この本を読むと分かってくる。
新しい経済分析の枠組みが出来上がりつつある段階で、その面白さと現時点での限界を両方見極めつつ、それをわかりやすく解説してくれるという、非常に良心的な本であると感じた。
- 感想投稿日 : 2017年9月17日
- 読了日 : 2017年9月17日
- 本棚登録日 : 2017年9月8日
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