タルムード入門 I

  • 教文館 (1998年7月1日発売)
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感想 : 4
5

この前読んだ「ユダヤ人の神話伝説」の拡大版みたいな本。最初にタルムードの成り立ちだけざっと説明して、トピックごとにトーラーの解釈と議論、付け加えられた物語等をまとめてある。めっちゃ面白い。
内在性と超越性、そして審判者としての義と慈愛の両面を併せ持つ神に、善と悪の二つの衝動をもち、そうでなくては生きていくことのできなかった人間たち。正義だけでは持たない世界のために、神は悪を世界に許す。神と人との世界を分かつ天と地。二元論が徹底して貫かれる世界観が美しい。
神も祈る、というのが素敵だった。
「わたしの愛がわたしの怒りを抑えることがわたしの欲するところとなるように。またわたしの愛がわたしの正義感にかち、わたしの子らに愛をもって処し、厳格な正義の要求にこたえつつなお彼らのためのとりなしができるように」
神は全部分かってるんだけど、逡巡し、やっぱり失えば悲しむし、祈りや悔い改めは喜び、天使や預言者とああだこうだ言い合ったりして、というのが生き生きと描かれていて、聖書の神より大分親しみの湧く感じになっている。好き。
悪への衝動が人間生来のものと認めながらも、残虐な迫害の中で神の意志の理解に苦しんでも、自由意志と罪の概念を棄てなかったラビたちの苦しみが神に投影されているように思う。

「(火の川は)ハヨット(獣)がほむべき聖なるお方の王座をかついでいるときに流す汗に発するものです」という話が載っているが、イスラームにも美しい鳥の汗からムハンマド(の魂)が生まれて、ムハンマドの汗から人間たち(の魂)が生まれて…みたいな話があったと思うのだが、あれはなんだったろう。
血でも、精液でも、涙でもなく、汗。涙だったらもうちょっとロマンチックじゃないかと思うけど、汗なんだよなあ…。中東の文化的文脈に、汗から生まれる、というのが何か前提であるんだろうか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 学術
感想投稿日 : 2021年1月30日
読了日 : 2021年1月30日
本棚登録日 : 2021年1月30日

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