1920年代のパリで熱狂的に迎えられ、一躍スターの座に登りつめた
アメリカ生まれの黒人歌手ジョセフィン・ベーカー。
「レビューの女王」「黒いヴィーナス」とも言われた彼女は、
フランス南西部の城を買い取り、そこに世界各地から人種の異なる
孤児たちを集め、人種や宗教を超えた理想郷を創ろうとした。
虹が異なった色で見事な調和を生み出すように、そこは本当に
理想の地だったのか。
日本から孤児として彼女の元に引き取られたアキオ。19歳になるまで、
「韓国人だ」と教えられ、多くの孤児たちの長男としての役割を果たす
ように育てられた。
その彼へのインタビューを中心にまとめてある。他の兄弟へのインタビュー
から明らかになる家族間の問題や、彼が孤児として引き取られた当時の
新聞記事から出自を本人にぶつけて行く。
本文中、話が飛ぶ箇所が多く読み難い。孤児たちへのインタビューは興味
深いのだが、取材の踏み込みの甘さは否めない。
加えて、他の出版物からの引用があるのだが、出典を明示せずに著者が
謝罪しているはずだな。
唯一良かったのは、アキオが捨てられた横浜の煙草屋を訪ねているとこか。
当時、高校生だった家人が存命で「ジョセンフィン・ベーカーに引き取られた
ということは知っていた。見世物にされていないか、ちゃんと生活出来ている
のか心配だった」と語り、フランスで銀行に勤めていると聞かされ喜ぶ姿は
ちょっとじーんとした。
ジョセフィン・ベーカーが夢見た孤児たちの城。そこは決して幸福を
もたらす場所ではなかった。富も名声も手にした彼女は、理想郷を
夢見て孤児たちの人生を犠牲に供したのではなったか。
あぁ、それにしても本書は物足りない。彼女の評伝を先に読めば
よかったかも…。
- 感想投稿日 : 2017年8月17日
- 読了日 : 2009年4月18日
- 本棚登録日 : 2017年8月17日
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