さいごの色街 飛田

著者 :
  • 筑摩書房 (2011年10月22日発売)
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「夜のとばりが降りた時刻、客引きのおばさんが手招きし、紫や赤の
けばけばしい色の蛍光灯が、上がり框にちょこんと座った女性を照ら
す店に、一人、また一人と吸い込まれて行く。私は、その光景を見な
がら歩くうちに、頭がクラクラしてきた。さっき、近くの商店街の食堂で
食べたきつねうどんの、やたら甘ったるかった出汁が、食道を伝って
口の中に逆流してきそうな気分に襲われた。」

引用が長くなった。本書の書き出し5行目からの文章なのだが、既に
この作品に対して印象が悪かった。先入観と言われればそれまでなの
だが、読み進むにつれ「これは飛んでもない作品に手をつけてしまった
か」との思いが深くなった。

今も昔も女性が春をひさぐ町。そういった町を女性が取材する難しさ
は分かる。男性の書き手と違って、実際に商売の行われている場に
潜入は出来ないのだから。

それを差し引いたとしても本書の著者の取材姿勢には嫌悪感を覚える。
著者が本書の冒頭で書いたような、吐き気を伴うような強烈な嫌悪感だ。

書かなきゃよかったのにと思う。吐き気を催すほどの光景のある町を、
何故、取材対象にしようとしたのかも分からない。こだわりもなく、愛情
もなく、事前勉強(売春防止法やら、風営法やら)もせず、女性が座る
店先を冷やかして歩き煙たがれる。

私は差別主義者ではないのだけれど、素人の女性が足を踏み入れは
いけない場所はあると思うんだ。それが本書で取り上げれている飛田
を始めとした色町なのだと思う。

東京の吉原や玉井を描いた男性の書き手による作品は何作か読んだ。
そこにはノスタルジーがあり、体を売ることで生活の糧を得る女性に対し
ての愛情が溢れていた。

そういった一連の作品と比較して本書に著しく欠落しているのが、取材
対象に向けられる愛情だと感じた。

飛田に関係があると噂されるヤクザの事務所にはアポイントメントなし
で突撃しているのに(一旦、取材拒否)、管轄する警察署にはライターで
あることを隠して「飛田では売春が行われているのに、何故、取り締まら
ないのか」と意見するってなんだろう。

対応した警察官に問われて「一市民として知りたい」と言いつつ、後に
は身分や目的を明かして取材しているのだが、飛田の「なか」では著
者の取材に協力してくれた人もいるのに「売春している。取り締まれ」
なんてよく言えたものだわ。裏切り行為じゃないんだろうか。

結局は詳細な話は聞けてないんだよな。色町という場所だけあって、
みな揃って口が堅い。話を聞けている部分もあるのだけれど、相手が
話したいと思うことを話させているだけ。相手の起源を損ねるのを恐れ
て「はい、はい。そうですね。飛田は情緒があっていいところですね」の
ような太鼓持ちになっている。

挙句、「あとがき」で「なお、本書を読んで、飛田に行ってみたいと思う
読者がいたとしたら、「おやめください」と申し上げたい。客として、お金
を落としに行くのならいい。そうでなく、物見にならば、行ってほしくない」
なんて書く始末。

だったら、作品として発表するなと申し上げたい。むしろ足掛け12年の
著者の取材期間こそ物見遊山だったのではないのか。

言葉遣いはおかしいわ、文章は拙いわで久し振りに酷いノンフィクション
を読んでしまったと後悔している。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月23日
読了日 : 2016年7月9日
本棚登録日 : 2017年8月23日

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