思春期にまつわる様々なテーマのエッセイ、論考を集めたこの本は、同時に教育論であり労働論にもなっている。教育について、あるいは労働について、考えを深めたいと思う人は、この本を読めば必ず有意義な示唆を得られるだろう。
同時に、これらの文が70年代から80年代に書かれていることを思い出す時、この教訓を生かせていない今を振り返って、暗然とする部分もある。
示唆に富む箇所をメモしていくと膨大な量になり、ほとんど全文にアンダーラインを引きたくなるほどに濃密で、それでいて見通しのいい平明な文章だ。
また、何度か書いたことだが、中井久夫氏の文章には、多くの著名精神医学関係者の文章が帯びる独特の臭気が全くない。あの、狂気を仰々しく祭り上げたり、逆に貶めたり、あるいはプレパラートに置かれた細胞の切片のように切り刻んだりする感覚と無縁である。
精神医学関係者に限らず、われわれ全ての者は、狂気というものを、認められない忌まわしい都合の悪いものをまとめて突っ込んで片づけるための便利なズタ袋のように扱いがちである。そういったものに対する解毒剤として、中井氏の文章は働いてくれる。
ともあれ、ここまで完成度の高い論考を前にすると、レビューというものの無力さを感じずにはいられないのである。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
中井久夫
- 感想投稿日 : 2013年1月8日
- 読了日 : 2013年1月4日
- 本棚登録日 : 2013年1月8日
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