文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1999年9月8日発売)
4.01
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本棚登録 : 12983
感想 : 1192
4

推しが主演する舞台の原作だと言われたら読むしかない。読まないという選択肢はない。EXILEを好きになった結果京極夏彦を読むことになるなんて夢にも思わなかった。人生何が起こるかわからないな。EXILEを好きにならなかったら京極夏彦を読まないままの人生だったと思うから、こういう「自分じゃ絶対に選ばないもの」を選ぶ機会ができてうれしかったし、そういうところはオタクをやっていて楽しいところだと思う。
ミステリーというものからして全然なじみがないし、京極夏彦のことはよく知らないけどなんだか難しそうだし、1000ページも読み切れるかなあ、と心配になりつつとりあえず買った。1000ページの文庫本を実際に持ってみると物理的な迫力がある。読み始めるとすぐに心配は消えた。読みやすくて美しい! 表記に特徴はあるけど、それでも文章がするする入ってくるのがすごい。それに内容もすごくわかりやすい。妖怪だったり神社だったり陰陽道だったりと難しいモチーフはたくさん登場するけど、そのひとつひとつを丁寧に説明してくれるから置いていかれる感じがしない。読んでいるうちにそういうモチーフまで魅力的に思えてくる。こんなの思春期に読んでたら人格形成に影響与えられまくりだっただろうな。
ストーリーは入り組んでいるし、登場人物も多いし、一見難しそうに思えるんだけど、物語についていけない瞬間はひとつもなかった。謎はあるけど混乱はしない。だからこそ絡み合った謎が順番にほどけていくのがひたすらに楽しかった。ほどかれた結果がきれいなものだったとは言えないし、言葉にできない複雑な読後感があったけど、ほどき方が美しかったせいで本全体がどうにも魅力的に思えてしまう。
自分の中にある怖いところをぐうっと引っ張り出されそうになるこの感じは何だろう。

それから、読んでる途中でふと『たのしい編集』(和田文夫著、ガイア・オペレーションズ)のことを思い出した。そういえば、あの本に京極夏彦のことが書かれていた気がする! と本棚から引っ張り出してきた。
「小説家の京極夏彦はみずから〈インデザイン〉でDTPをおこなっているという。デビュー作の『姑獲鳥の夏』(文庫版)をみると本文約六二〇ページ中、文章の途中で改ページされているのはわずか十一ヵ所。それもほぼすべて「、」で改ページされ、改ページの冒頭が会話ではじまるといった区切りのよい場合だけである」(『たのしい編集』本文から引用)
どうやら京極夏彦はデザイナー出身らしい。読み終わったページをぱらぱらとめくってみたんだけど、どのページもみごとに見開きの最後で文章が終わっている! さらにびっくりしたのは本編後の注釈だ。
「文庫版として出版するにあたり、本文レイアウトに合わせて加筆訂正がなされていますが、ストーリー等は変わっておりません。」(本文から引用)
この徹底っぷり。私はこれまで「読みやすさ」や「わかりやすさ」といったものを「難しいものをかみくだき、平易にすること」だと思っていたけど、それ以外にももっと方法はあるのかもしれない、と気づかされた本でもあった。

それにしても京極堂こと中禅寺秋彦、あまりにも魅力的すぎないか!? これを推しが演じるなんて想像するだけで泣きそう。京極堂が登場するたびに大興奮したし、かっこいい科白言うたびに付箋貼った。「この世にはね、不思議なことなど何ひとつないのだよ」というフレーズが推しの口から出てくる日が今から楽しみでたまらない。

【読んだ目的・理由】推しの主演舞台の原作だから
【入手経路】買った
【詳細評価】☆4.0
【一番好きな表現】
「呪うも、祝うもそれは言葉次第。あなたの気持ちなど関係ない。たとえ発する者に嘘偽りがあろうとも、一度発せられた言葉は勝手に相手に届き、勝手に解釈されるのです。問題はどう表現するかではない。どう理解されるかです」(本文から引用)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年4月28日
読了日 : 2019年4月28日
本棚登録日 : 2019年4月28日

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