明治期から1930年代までの通史を、国民国家の形成と挫折という視点から描いている。
米仏のような国家の基本理念がないところから出発した明治日本は、天皇という庶民にも馴染みのある存在を中心に据えた。教育や徴兵、日清・日露戦争という庶民にも身近な戦争を経験して国民意識が形成されていく。しかしそれと同時に、「国民」(という意識を持ち政治に関与する人々)が個人の自立が不十分なまま大衆化するとともに、明治天皇からカリスマ性に劣る大正天皇に替わったことや、政党政治の失敗を経て、国家と国民が乖離する。そこに入り込んだのが国体論だった、というのが本書の流れだ。
筆者の論は理解できるのだが、一方でそれは果たして国民国家の失敗なのか、それとも民主主義の失敗なのかという疑問は残る。総動員体制下の日本のように、自由は制限されても国民が帰属意識を持つ国家は、やはり国民国家とは言えないのか。現代の北朝鮮や中国はどうなのだろうか。さらに言えば、自由民主主義ではなくとも、国民がある意味で国家に関わる体制は、一種の民主主義とも言えないだろうか(井上寿一先生が「デモクラシーとしての大政翼賛会」との指摘をしていた)。
また筆者は、日本領となった台湾・朝鮮半島の人々と国体論の矛盾、それを解消するための皇民化政策についても指摘している。他方、英仏の植民地と国民国家の矛盾というイメージは浮かんでこない。台湾と朝鮮半島は日本と地理的に隣接し、民族的にも比較的類似していたためのことだろうか。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本
- 感想投稿日 : 2018年4月29日
- 読了日 : 2018年4月29日
- 本棚登録日 : 2018年4月29日
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