言論統制: 情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書 1759)

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  • 中央公論新社 (2004年8月25日発売)
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 戦時中の言論統制の象徴とされた軍人鈴木庫三の評伝と言うべき内容。極貧から下士を経て陸士へ、しかし輜重兵となり失望。陸大は受験資格すら得られない。一方で日大の夜学に通い、帝大派遣学生となる。典型的エリート軍人ではなく、努力を重ねた人物という感じだ。
 国防国家論など鈴木の信念に現代の感覚では賛同できないが、本書からより強く感じるのは、戦時中は鈴木に追従しつつ、戦後は自らを被害者として事実関係も詰めずに鈴木を一方的に糾弾する新聞・出版側の欺瞞だ。そもそも鈴木が言論統制に携わる配置にあったのは1938〜42年の3年半のみ、階級は少佐から中佐であり、どれほど鈴木個人の影響力があったのか。また、新聞・出版側にも商業的動機はなかったのか。
 また著者は、「大衆の世論形成への参加欲求においてファシズムとデモクラシーに変わるところはない」と言い切り、デモクラシーとファシズムを共に「政治の大衆化」「大衆の国民化」とする。鈴木が富裕層や天保銭組を敵視し大衆側に共感を持っていたことも、彼を国防国家論に駆り立てた要因だったのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2021年4月20日
読了日 : 2021年4月20日
本棚登録日 : 2021年4月20日

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