テレビ最終戦争 世界のメディア界で何が起こっているか (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2018年7月13日発売)
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著者は元NHKの記者で、90年代前半にはTBSからニューヨーク特派員として米国でメディア関係の取材をしていた。現在はメディア関連のフリーのジャーナリストである。
本書の目的は、グローバルに大きな変動期にある世界のメディア業界の動向をまとめ、新しいテレビの展望を示すことだという。2018年7月刊行のものだが、日欧米のメディア業界の状況がこの断面でよくまとめられている。
特にこの数年においてはグローバルには米国企業を中心に大きな業界再編の動きが見られたため、こういうまとめは頭の整理に役にたつ。そして、グローバルでの動きに引き換え、日本ではメディア企業の再編の動きはとてもにぶいことがよくわかる。グローバル=アメリカであり、日本は特殊な事例ではないのかもしれないが。

本書では、「テレビ最終戦争」と言いながらもNetflixとAmazonなど巨大IT企業の話が軸になっている。日本にもDAZNも含めてオンデマンドのVODサービスがかなりのペースで入ってきている。こういった企業がコンテンツに多額の資金を投入することにより、ハリウッドやスポーツ産業を含めた業界が大きく変容しようとしているのがわかる。もはや「テレビ」との境界はあいまいになり、コンテンツをいかにして届けるのかという勝負になっている。昔、マルチメディアという言葉が流行ったが、テレビ含めて複数のデバイスで映像サービスを楽しむのはもはや当たり前になった。

また、あまり知られていないことだが、アメリカではFacebookもNFL、NBA、MLBなどのメジャースポーツコンテンツに多額のお金をつぎ込んでいる。Twitterでも、NFLをタイムラインで放映するなどアプローチを強めている。SNSとリアルタイムで行われるスポーツコンテンツは非常に相性がよいことはわかる。

Googleも負けてはおらず、YouTubeという最大の武器を活用して、YouTube PremiumやYouTube TVで新しい映像コンテンツの楽しみ方を積極的に提供している。先日発表されたStadiaというゲームプラットフォームも上手くYouTubeのプラットフォームに組み込まれた形になりそうだ。もちろん、GAFAの一翼であるAppleもApple TV+を発表して、得意の後出しじゃんけんでの市場進出を狙っている。

こういった新興勢力の攻勢を受けて、ケーブル業界や衛星放送業界やテレコム業界でも大きく再編されたのもアメリカのダイナミズムだ。CharterがTime Warner Cableと買収したことで、業界1位のComcastとの二社で市場の7割を占める寡占市場になった。テレコムの雄であるAT&TもDirecTVを傘下に収めるとともに、コンテンツホルダーであるTime Warnerも買収している。コンテンツ産業側でもDisneyが21世紀Foxを買収し、独自のルートで配信を模索するなど対抗する動きも見える。ケーブル会社のComcastがNBC Universalを保有しているなど、コンテンツ産業も含めて市場再編が進んでいる。こういった業界では、ルパード・バードックやジョン・マローンといった大物がまだ幅を利かせているのもこの業界ならではという感じがする。テレコム業界のAT&Tと並ぶVerizonはAOLやYahoo!を買収してVerizon Mediaという別会社として再編するなど別角度からのアプローチを行っており、この後の展開がどうなるか興味深い。こういった流れの中でも、Discovery、CNNなどの特定のコンテンツに強みを持つ事業者も活躍しているところもまたアメリカらしい。

最終章では、日本のメディアへの期待と希望が語られる。
広告市場では、日本でもモバイルがインターネットを抜く日が近い。市場の変化を前にして焦りが行動につながっていないように見える。もちろん、日本でも、hulu、Abema TV、TVer、NHKなどがインターネット上での映像配信に力を入れている。ケーブル業界でもJ:COMがNetflixとの提携を発表しているのをはじめ、ネットへのシフトが進んでいる。しかし、アメリカで見られるような大きな業界再編の流れは見えない。そういった観点でも日本の課題はローカル局かもしれない。本書では、インバウンド需要がローカル局の機会と語るが、おそらくはそれが大きな流れとなることは難しいだろう。アジア市場への進出の希望を著者は語るが、その前にアメリカの巨大企業がそれらの市場に乗り込むことだろう。すでに日本でも取り組んでいるように、コンテンツのローカライズを着々と進めている。

久しぶりにメディア業界の動向をざっとまとめた本を読んだが、ものすごく新しい視点や内容があるというものではないが、情報がまとまっていて役に立つ本だと思う。

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この本でNetflixのヘイスティングもアフリカに縁があったということがわかった。イーロン・マスク、ピーター・ティール、リチャード・ドーキンスもアフリカに住んだことがある。アフリカに住むということは、どこか視点を拡げるような原体験になるのかもしれないと、ふと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 通信
感想投稿日 : 2019年4月13日
読了日 : 2019年3月24日
本棚登録日 : 2019年3月25日

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