多重人格殺人者 下巻 (新潮文庫 ハ 26-2)

  • 新潮社 (1994年9月1日発売)
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感想 : 3
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すっきりとしない終わり方だった。肝心の宿敵、ゲイリーとはカタがつかず、過去恋人だったジェジーは処刑され、騙されたことに対する落胆などは「俺はタフな男」ということで、そのまま過ぎ去っていったように思う。別にそれでいいのだが、そこで得る得たいの知れない感覚が描かれてないのであれば、彼らが登場した意味があるのかないのか。多重人格者の傾向などは描かれているが、その真の狂気のようなものをゲイリーから感じなかったのも残念だ。いったい全体彼は賢い狂人のような印象を受けたが、過去のトラウマを克服してしまっているようにも見える。別れた人格を利用して思うままに生きている様は、成功者のようでもある。精神的な障害を抱えている人の短絡的な勝利とは、ただひたすらに過去のトラウマから逃れられた、という後ろ向きであることが前提のように私は思っているため、この知的でポジティブな犯罪者の後ろ向きな面があまり描かれなかったのは、少し残念に感じた。犯人がただ多重人格だった話となった。

主人公に感情移入するも、想い人に裏切られ、子供も危険に晒され、いつまた家が襲撃されるかわからない状態で、タフな男として強さのヒントや葛藤の解体、事件の解決による安堵感などというものを感じなかったのは、そもそもそのような領域を狙った書いた作品ではなかったからだろうか。訳者あとがきで、エンタメに徹した、早朝2時間の執筆、という文言からは、その言葉通りの印象を私は受けた。私はそのような生活を送れないため、出勤前の2時間、継続して毎日執筆していることには恐れ入るが、私が(勝手に)望んだものは得られなかったのが残念である。

最後、子供が無事かどうかだけ、ひやひやした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年10月2日
読了日 : 2023年10月2日
本棚登録日 : 2023年10月2日

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