半日の放浪―高井有一自選短篇集 (講談社文芸文庫 たM 2)

著者 :
  • 講談社 (2003年7月1日発売)
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本棚登録 : 21
感想 : 4
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北の河がほんとうに読んでよかった作品だった。言葉にならない部分を情景(東北の冷たい河)が補う。そういう意味で完璧なバランスの上に成り立っていたように思う。起こってしまったこと(戦争によるそれまでの生活の崩壊)をそういうものだと受け取れる15歳の僕と、これまでとは明らかに変わってしまったと考える母。この決定的な違いを話の中に見れた気がした。だから母は息子とふたりで生きていかなければならないこの先について耐えられなく思い、命を絶つ。15歳の僕にはどうしようもできない。そのどうしようもなさが手に取るように分かる。描かれているすべての情景や空気感が、この話の核を包括している。あるべくしてある小説だこれは。
他の作品もとにかく文章に惚れ惚れとする。だが北の河に匹敵する作品はなかった。朝の水と夜の音みたいな作品がずっと続けば間違いなく星5だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年4月29日
読了日 : 2021年4月28日
本棚登録日 : 2021年4月28日

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