「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫 青 146-1)

著者 :
  • 岩波書店 (1979年9月17日発売)
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高校時代に買い、大学の哲学科を卒業して2年経った今日ようやく読了です。

(日本人的)情緒論の『ティマイオス』、これがこの本の評として相応しいなと思いました。であると共に、日本の芸術文化に関する類稀なる良解説書でもあります。文句なしに名著です。ただ、残念ながら当の日本人が最も理解するのに困難を来す本だとも思います。

『ティマイオス』とは、プラトンが自然について論じた対話篇ですが、この本の「風流に関する一考察」のp.125「昔の哲学者は、地、水、火、風の四元質……」の話は、まんま『ティマイオス』の話です(プラトンの名と書名を出さないで「昔の哲学者は……」とぼかす辺り、筆者の含み笑いとドヤ顔が想像されますね)。それはともかく、いきや風流といった情緒の「構造」を語る上で、筆者が幾何学的モデル化というのを意識したということがまず先進的ですね。そして、ここが最もこの本のすごいところなんですが、その幾何学的モデルで日本的情緒について明晰に説明し切ったところです。二項対立を一つの軸とした三次元立体空間の中で、様々な情緒の持つ質感をマッピングしたところに、幾多の感情に関する論の中でのこの本の白眉があります。こういうマッピングというのは、実は最先端の人文学でも思想をどう分析するかの手法として最近やられていることで、それを日本人の情緒で真っ先にやったのが九鬼周造だと言っても過言ではない。だから、凄い本です、これ。

題材として扱われているものも、謡曲から江戸の文学、果ては詩歌と多彩ですね。情緒の構造を明確に捉えつつ、日本文化の芸術性というものもしっかり浮き彫りにしているように思います。日本文化論、芸術論として読むなら、『風姿花伝』に匹敵する面白さだと思います。

まぁ、そうは言っても、難しい本です。そりゃ、哲学書ですから、専門家でない限り、全行一字一句の意味を取って吟味しようとすれば、著者九鬼周造の圧倒的知識量に屈服させられるだけです。文章の要点を取って読めば、決して難しい内容ではありません。国語でいい点数取れる人は十分読める本ですよ。国語の問題にしてもいい文章ですね(笑)
むしろ、「いき」の質感を感じることが、今の日本人には難しい、そういう意味の難しさです。「粋だねぇ!」って日常的に言葉にする生粋の江戸っ子なんてもう絶滅種でしょう。「いき」自体がもう死語じゃないですか。対義語の野暮っていうのも使わなくなりましたねぇ。野暮な世の中になったものだと嘆くのは簡単ですが、もはや自分達は外国人になったものと思って、失われた情緒を取り戻すくらいに考えなければ、「ピンとこない難しい話」で終わるだけでしょうね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 学術書
感想投稿日 : 2015年1月14日
読了日 : 2015年1月14日
本棚登録日 : 2015年1月14日

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