北朝鮮に消えた友と私の物語 (文春文庫 は 17-4)

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年5月10日発売)
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感想 : 8
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[暗闘に消えた友情]戦後間もない頃、共産主義運動に青春を傾けながら友情を分かち合った著者とその友人の尹。北朝鮮への帰国事業に参加した後、音沙汰が途絶えてしまった2人の関係であったが、「赤旗」の平壌特派員として北朝鮮に送り込まれた著者は、ある人物から「尹が今ここにいるから来ないか」との誘いを受け......。満場一致で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した渾身の作品です。著者は、本書の執筆中も身の安全への不安から震えにたびたび襲われたという萩原遼。


自らの人生路をたどりながら帰国事業の真相、体制が糊塗しようとしたもの、平壌における生活の一端などを明らかにしていくのですが、若き頃から朝鮮が身近であった著者だからこそ書ける臨場感に満ち溢れていました。また、友人を死地に追いやってしまったかもしれないという懺悔にも似た思いから溢れる切迫感も著者の筆からひしひしと伝わり、北朝鮮の底深き一点を著者と共に覗かせてもらったように思います。


本書の白眉は北朝鮮への帰国事業の内幕を、公文書などを用いながら徹底的に暴ききったところ。「地上の楽園」と北朝鮮を喧伝しつつ、迎える側も送る側もその虚偽を知りながら、いわば独善と少数のための影響力確保の観点から進められたこの事業の恐ろしさ(そしてこんなことを許したというやり切れなさ)を改めて知ることができました。戦後初期の日・朝鮮関係に特に顕著に見られる、国家単位の関係までには表立ってこないどろどろした感じを体感できたところも有意義でした。

〜お人好しもまた罪悪である。〜

いろいろと目を開かせてくれました☆5つ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年2月9日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年2月9日

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