七帝柔道記 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2017年2月25日発売)
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感想 : 8
4

特別の感慨を持って本書を読んだ。
著者増田俊哉氏は1965年生まれ。旧帝国大学の七校(東大、京大、阪大、名大、九大、東北大、北大)で行われる柔道大会、七帝戦に出ることを目標にして、二浪して北大に入学する。
そして、講義に出たり、サークル活動や、合コンで青春を謳歌する同級生から距離を置いて、朝から晩まで柔道場の畳の上で練習に明け暮れる生活を送った。この作品は彼の自伝的小説だ。
七帝戦は、所謂オリンピックはじめ、様々なところで行われている柔道(講道館柔道と呼ばれる)とは異なるルールで行われる。
通常の柔道は立ち技が基本で、そこで投げが決まらず、倒れ込んだ時にのみ寝技が許される。
七帝戦の柔道は「高専柔道」と呼ばれ、戦前の旧制高等学校、大学予科、旧制専門学校の柔道大会で行われていた寝技中心の柔道で、いきなり寝技に引き込むことが許されている。
そして、一瞬で勝負が決まる立ち技と異なり、寝技はかける側と守る側の攻防か延々と続く。高専柔道には寝技の膠着状態を止める「待て」がないため、試合時間をずっと「カメ」という体制で寝技を防ぎ、引き分けに持っていく事も重要な戦術となる。それゆえに大学から柔道を始めた白帯選手がひたすら寝技の防御を覚えて、引き分けに持ち込む分け役となり得る。
物語は一年に一度、新聞のスポーツ欄にさえ取り上げられない、小さな大会である七帝柔道戦において、過去には連覇をした歴史があるにもかかわらず、今は最下位に喘いでいる北大柔道部の部員である著者の2年間を描いたものだ。
濃密な、汗にむせる様な描写の青春記である。

一方で自分も同じ1965年生まれ。日本でトップを争う進学校に入ったものの、落ちこぼれた。それでも、中学2年生の時に友人に誘われて行った中学生四人だけ北海道旅行が忘れられず、北大を志望し、二浪した末に北大に合格した。
増田氏は水産系、自分は文Ⅰ系なので、全く違う系統だが、同じ4年間を札幌の、あの北大周辺の土地で暮らしていたはずなのだ。
氏が描く当時の街の様子や、北大周辺の有名な飲食店は自分にも馴染みのあるものもあったし、学生の雰囲気も、当時の様子を思い出させる。
そして一方で、増田氏が2年の時に、怪我をして観戦のみとなってしまった七帝戦において、対決する東大柔道部には、嘗て自分の中学、高校時代の同級生だった人たちの名前が見える。
彼らもまた、場所は違えど、この独特な七帝柔道の世界に魅了されて学生時代を送ったのかと思うと、ちょっと例えようのない奇妙で、静かな興奮を感じるのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(国内)
感想投稿日 : 2023年10月28日
読了日 : 2023年10月28日
本棚登録日 : 2023年10月28日

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