読書備忘録806号。
★★★★。
東京北区の下町で生まれ、千葉の市川で育ち、社会人デビューと共に神戸で30年以上。今は品川区単身生活中の関東関西バイリンガルジジイ、シンタロウです。(^^)/
さて、この作品。鉄道を絡めた人間ドラマ短編集です。
鉄道の絡み方は薄かったり濃かったり・・・。
どのストーリーも登場人物の息遣いや体温が感じられるものでしたが、どんっ!どんっ!というインパクトは無かった。タイトルに★付はめっちゃ良かった!
【★お弁当ふたつ★】
板倉佐和。専業主婦。
夫の潤一。高血圧、高脂血症でお弁当に気を遣う。
大学1年の息子と高1の娘の4人家族。
家族を職場に、学校に送り出し、奥様ランチへ。
ランチ帰りに旦那の職場にスイーツの差し入れを、と寄ってみた・・・。
夫は随分前にリストラされていた(>_<)。え?でも給料は振りこまれていた?
夫は毎日どこに行っている?次の日、追いかけてみた。外房線⇒内房線⇒外房線⇒内房線・・・。
自分がのんきにランチしている間に、夫はどれだけ苦しんでいたんだ。夫が家族の為に努力しなかった訳はない!佐和のとった行動は・・・。(T_T)
【★車窓家族★】
関西の私鉄。住居の軒先を掠めて走る。おいおい阪神電車やんか。笑
電車が信号待ちで頻繁に一時停止する場所にある文化住宅。カーテンを閉めずに暮らす老夫婦の生活が電車から丸見え。鍋だったりおでんだったり・・・。
それを電車から見る乗客達。そしてある日。トラブルで一時停止の時間が長引く。老夫婦の部屋の電気が灯らない。何があった?何があったんだ!ポッと点く灯り。良かったぁ。多くの乗客がホッと胸を撫で下ろした・・・。笑
【★ムシヤシナイ★】
大阪環状線T駅。多分天王寺やな。
駅そば店を切り盛りするジジイ、秋元路雄。妻は既に亡く、息子の正雄は東京。
妻にも息子にも金銭的に苦労掛けた。でも今は一人。生活はぎりぎりだけど駅そば人生でゆっくり幕を閉じていきたい。
ある日の閉店時。中学生らしい少年が店の外に・・・。
ん?孫の弘晃?東京から一人で?
どうした?とは聞かない。まあゆっくりしていけ。
そして弘晃は苦悩と自分が抱える恐怖をぽつりぽつりと話し始める。
路雄は弘晃に教える。包丁はな、葱を刻むためにあるんやで・・・。苦しくなったらいつでも来たらええ、虫養いしたるわ・・・。
【★ふるさと銀河線★】
北海道ちほく鉄道ふるさと銀河線。北見から池田までの140km。
運転士の康晃を兄に持つ中学3年生の星子。
両親は事故死。2人はふるさと銀河線の途中駅陸別で慎ましやかに暮らす。
生きていく為、地元の為、演劇の夢を諦めようと考えている星子。それは違う。間違っている。諦めたことを一生引き摺る。
兄、学校の先生、天文台の職員が、星子が夢を追えるように暖かく寄り添う。
【返信】
またまた陸別。ふるさと銀河線。15年前、息子の徹から届いたはがき。そして、徹はこの地で事故で死んでしまった。
徹の両親、瑛一郎と諒子はこの地を訪れた。何もないところ。でも天から降り注ぐ無数の星。徹よ、お前もこの星空を見たんだな、と返信ハガキを認める。
【雨を聴く午後】
江口忠。証券マン。バブル崩壊で全てはただの紙切れになった。
忠の顧客だった父親を自殺で亡くした兄弟にボコられる線路ぎわ。そこは大学時代過ごした安普請アパート、共栄荘のそばだった。
あの頃は希望に燃えていた。自分が住んでいた部屋のバルコニーに真っ白なソックスが吊るされている。毎日毎日吊るされている。誰が住んでいるのか?
当時付き合っていた彼女に渡していた合鍵があった。もし当時の鍵のままだったら・・・。開いた!部屋に入ってみた(オイオイ!)。
どうやら住んでいるのは女性?インコが飼われていた。「ダイジョーブ!ダイジョーブ!」とさえずるインコ。机にあった手記。どうやらアルコール依存症から抜け出すために夫とあえて別居して苦しんでいる女性のようだ・・・。
苦しむ自分と重ねる。苦しみながら生きて!みっともなく生きて何が悪い!みんな足掻きながら生きるんだ!
【★あなたへの伝言★】
共栄荘。205号室に住む露野みゆき。
夫の夏彦と結婚して寿退社。仕事が超絶忙しい夫。ずっと家に一人。そしてアルコール依存症に。
夏彦はみゆきの再起の為にあえて、一人暮らしさせることを決意した。
そしてインコを飼わせた。再飲酒したらインコの世話ができずに殺すことになる。命を預かるんだという使命を与えて。
夏彦さん、今日は大丈夫でした。今日も大丈夫でした。明日も頑張ります。でも怖い・・・。
毎日通勤で夏彦が乗る新宿行き通勤快速へのフラッグ。白いソックスだった。
【晩夏光】
小磯なつ乃。老婆。
夫には2年前に先立たれ、息子は独立して家庭を持った。
義理の母のアルツハイマー型認知症の介護は地獄だった。今、やっと一人で住むこの家の庭いじりは私の生きがいとなった。
息子の智男が突然訪れてきた。出張だとか。
ちょうど良かった。桃を持たせよう。美味しいから。
翌日智男の妻から電話が来た。桃をありがとうございましたと。
桃?なにそれ?智男が昨日来た?え?
病院での診断はアルツハイマー。
残された時間を有意義に。その日のこと、やること、大学ノートに記録していこう。そして智男への思いも・・・。
介護施設でノートを開いている中年男性が横にいる。その男性曰く、お母さまが記したノートだとか。お母さまは幸せね、息子さんにこんなに想われて。
遠くで電車が走る音がした・・・。
【★幸福が遠すぎたら★】
新潟で酒造を営む倉橋桜。日本酒の需要は減っている。資金が回らない。父から受け継いだ造り酒屋はもうだめかも・・・。
2001年の元旦。つくば万博のイベントとして行われたポストカプセル郵便が届いた。大学時代の同級生からだった。
「38歳の桜へ 3/3に梅桜桃は京福電鉄嵐山駅に集合せよ!」とのこと。
そして集まった桃谷一也、梅田善明。
みんな元気そうな38歳だった。でも、15年の歳月は3人の肩に生きるということの重しを平等に背負わせていた・・・。
まあ、悪くない短編集でした!
- 感想投稿日 : 2024年3月1日
- 読了日 : 2024年3月1日
- 本棚登録日 : 2024年3月1日
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