文庫版 狂骨の夢 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2000年9月5日発売)
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本棚登録 : 8759
感想 : 656
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私の記憶力の乏しさは、この度の久し振りの再読にも遺憾なく発揮された。事件のあらましを、さっぱり覚えていなかったのである。なので逗子海岸からのスタートに「懐かしの神奈川の海岸線だなあ」と呑気に読み進めて、すっかり騙されてしまったのだった。
髑髏を中心に、おどろおどろしい記憶と行動が折り重なり、悲劇にたどり着いてしまった今作。骨と髑髏が恐怖の象徴にもなっていたのに、憑き物落としが進むにつれてある種の滑稽さをまとっていったのが不思議な感覚がある。起きてしまった事実はひどく悲しいことであるのに、海岸でのラストは妙に軽快だ。事件を見つめる視点が瓢箪鯰の伊佐間に始まり伊佐間に終わったのも一役買っているのだろう。
髑髏のほか、鍵となったのは夢の存在だ。降旗とフロイトの存在が、物語の横顔を照らし続けた。妖怪変化の類に軸があるように見せて、精神医学やキリスト教まで話の風呂敷が広がるのには驚く。知識の掘り下げも、京極堂の詭弁も、読み進めると本当にぞくぞくさせられる。
前作を読み返した時にも思ったのだが、いい大人になって地名に対する認識が明るくなり、距離感が身体感覚として腑に落ちるようになっているのが楽しい。伊佐間が名越の切り通しを歩いて逗子の浜まで行ったのには、よくもまあそんなに歩くなあと思ったりしたのであった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 講談社文庫
感想投稿日 : 2023年9月20日
読了日 : 2023年9月19日
本棚登録日 : 2023年9月19日

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