ゲーム理論〔第3版〕

著者 :
  • 有斐閣 (2021年3月11日発売)
4.67
  • (2)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 82
感想 : 9
5

ゲーム理論の教科書。定義・定理・証明と完全に数学書の体裁で書かれている。各章の後半には応用例が紹介されている。
ゲーム理論は、さまざまな社会的現象を、各プレイヤーが自分の利得の最大化を目指して行うゲームをしていると見なして物事を考えていくものだ。いちばん有名な例は、「囚人のジレンマ」だろう。ふたりの囚人には黙秘か裏切りかのふたつの行動パターンがあり、それぞれが自分の利得を最大にするためにゲームをする。実際にはそれは遊戯ではなく、どれくらいの刑期を喰らうかという深刻な話なのだが、数学的には利得最大化のゲームをしていると見なしてよいのである。
ゲームの解概念として「ナッシュ均衡点」「部分ゲーム完全均衡点」などが紹介されている。
ナッシュ均衡点は簡単に言えば、「自分が戦略を変えても得をしない」という状況がどのプレイヤーについても成り立っている状況である。つまりいったんそこに到着すればどのプレイヤーも自分の戦略を変えないからそこで均衡してしまう。どのプレイヤーも、自分の直面する状況における最適な戦略を採用している。囚人のジレンマでは、ナッシュ均衡点はパレート最適ではない。この事例は、個々のプレイヤーが合理的にプレイしても、かならずしも社会的に最大の効用が達成されるわけではないことを示している。
部分ゲーム完全均衡点は、ナッシュ均衡点よりもさらに強い解概念で、各プレイヤーは、どの部分ゲームについてもナッシュ均衡点を選択する。この解を求めるには、後ろ向き帰納法が有効だ。最後の手番でプレイヤーBは最善手を選ぶ。その選択を前提に最後から二番目の手番でプレイヤーAは最善手を選ぶ。その選択を前提に最後から三番目の手番でプレイヤーBは最善手を選ぶ。……その選択を前提に最初の手番で、プレイヤーAは最善手を選ぶ。これが部分ゲーム完全均衡点になっている。
利己的なプレイヤーだけではなく、他のプレイヤーと協力するような「協力解」の理論もある。非協力ゲームの枠組みの中で、自分の利得を最大化するために「協力する」という戦略をとると考えればよい。
ゲーム理論の視点から見れば、社会制度は、「ゲームのルール」になる。囚人のジレンマに代表されるように、個人が利得を最大化する状況では必ずしも全体合理化がされるわけではない。パレート最適にさえならない場合がある。したがって、ルールのデザインが重要になる。どのような社会制度の下でゲームをするのが望ましいか、ということである。
「ゲームのルールを変更する」ということさえ、もっと大きなゲームのなかでプレイヤーが行っている戦略のひとつだと言うこともできるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 数学
感想投稿日 : 2022年11月11日
読了日 : 2022年11月11日
本棚登録日 : 2022年11月11日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする