主人公、謙作の心の曇りのようなものと、それを晴らす救いを描いている。その曇った精神は、謙作を彷徨わせ放蕩させる。物語の前半で、謙作は自身の秘密を知る。謙作は秘密であった事実そのものより、自分も受け継いでしまったと感じているそれに至った「血」への思いを吹っ切れなくなる。秘密を知る前の彷徨いや放蕩もその「血」に結びつけようとしてしまう。そこに直子が現われる。直子の生命力に触れ、謙作の曇りは晴れかけるが、子供の死とそれに続く思いもよらぬ事件が、謙作を曇りを超えた狂いに向わせる。しかし、それを吹っ切ろうとした謙作の死を予感させるラスト、謙作と直子のお互いを求める心がそれぞれを救う。暗く美しい物語である。
志賀直哉自身によるあとがきが添えられ、登場人物のモデルの有無などが語られている。私小説が現実の世界にもたらす憶測や中傷などに配慮したものと思われる。人の世の変らなさを思う。
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2023年12月23日
- 本棚登録日 : 2023年12月23日
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