土地と日本人 改版: 対談集 (中公文庫 し 6-48)

著者 :
  • 中央公論新社 (1996年10月18日発売)
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感想 : 14
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(01)
司馬が5人の論者と対談をして,ほぼ手製でまとめた対談集で,司馬の持論である土地の公有化について,昭和50年前後の対談者の見解を求めた内容となっている.
日本列島における土地所有の歴史が語られ,欧米の例が引かれ,現代の投機的な土地所有のあり方に疑問を呈している.語られた時代背景として,田中角栄の列島改造論などの国土開発の問題があり,都市的な所有よりも農地や山林の所有(*02)や土地売買への批判を投げかけている.
土地法制の専門家である石井紫郎氏との対談では,「公」のあり方や納税意識にまで議論は及んでいる.また土木技術や水利の条件により土地所有が語られることもあるが,特に鉄製の農具や武器の所有や,鉱山開発とともに土地所有が問題とされている点は興味深く読まれる.

(02)
現代日本の農政や林政も問題視されているが,社会主義や天皇制などの政治とイデオロギーにも触れながらも,景観や環境の課題解決の方法として,司馬は土地所有を議論している.現代の土地の所有熱は,司馬に「イリュージョン」とも表現されているが,イリュージョンと日本人を取り巻く環境総体の齟齬については,いまだ議論の余地は大きく残されているように思う.
地価が金融や財政とも連動して現代の日本経済の基礎がどのように築かれたのか(バブル経済はどのように生まれたのか),また,年貢や小作料が近世近代にどのように導入されたのか,といった歴史的経緯を概観するうえで,本書は入門としても読むことができる.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年7月31日
読了日 : 2019年7月27日
本棚登録日 : 2018年5月27日

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