メモリアル病院の5日間 生か死か―ハリケーンで破壊された病院に隠された真実

  • KADOKAWA/角川マガジンズ (2015年4月24日発売)
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感想 : 6
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2005年8月 巨大ハリケーン・カトリーナがニューオリンズの街を襲った。
本書は、その嵐に襲われた地域の拠点病院メモリアル病院でなにが起こったかということの詳細な経緯、そしてなぜ医師たちはそのような行動をとったか。そして、法廷はそれをどのように判断したかの記録である。

重要なこと、ハリケーンは急にニューオリンズの街で発生したのではない。
それは、メキシコ湾で発生し、徐々にニューオリンズに接近していった。
ただし、その接近スピードは速く、十分な用意のできていない病院が対処する時間はあまりに少なすぎた。

病院には、災害時に対処するプログラムがあった。
しかし、それは、起こり得る災害を想定し、その災害に具体的に対処するプログラムにはなっていなかった。
病院の担当部門は、病院が耐えうる、病院にとって都合の良い災害を想定し、その範囲内については、対処するプログラムを組んでいた。
しかし、それは実際に発生した災害、ハリケーンによるニューオリンズ市街の水没、前電源喪失、輸送路の途絶などには、まったく対処しておらず、またプログラムに沿ったリハーサルは行われていなかった。

屋上ヘリポートも、自家発電装置も、病院には備えられていた。
しかし、経済性が優先されたためヘリポートの改修は放置され、また、長時間の運転に耐えるよう想定していなかった発電装置が切れた後、ヘリポートに通じるエレベーターは停止した。
そして、自家発電装置の停止は、生命維持装置の停止、病院機能の停止、さらに45℃にもなる病院内を快適に保つ空調装置の停止も意味していた。

その極限のなか、医療スタッフたちは懸命に患者の命を助けようとする。しかし、状況はあまりに厳しく、また、医療スタッフの対応力にも限界がある。
そして、現場ではいくつかの選択が行われ、また、それは一部で実行された。

本書の状況は、あまりに日本の原発事故対応、再稼働をめぐる状況に似ているのではないだろうか?
世界一安全な基準は、原発運用者にとって都合のよい状況を想定され、それに対する備えとして考えられた。
さらに、その備えすら、完成が間に合わない部分については、できることを期待しつつ、まずは、利益優先で、再稼働を先行する。
そして、重要な住民、そして、状況によってはさらに広範囲な住民、そして状況が拡大すれば多くの国民に影響がある原発事故。
その避難対応については、原発事業者も、地方自治体も、国、そして政治家も誰も責任を負わず、事故が起こってしまったら考えればよいと、安易に無視する。
そして、その無視した偉い人たちは、おそらく自分たちの安全については、最大限の配慮をし、多くの国民は切り捨てる(医療スタッフがそのような行為をしたわけではない)。

本書は、原発はじめ多くの危機管理に関係する業務に従事するものは読んだほうが良いと思う。そして、自らが関わった危機管理対策が、真に実効性のあるものか、もう一度考えるべきだと思う。
特に、人の命にかかわる仕事をしているものは、その選択が自らにとってのみ有利なものになっていないか、経済性が優先されていないか、必要なことが十分に想定されているか、もう一度見直すべきだと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年8月24日
読了日 : 2015年8月24日
本棚登録日 : 2015年8月24日

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