新版 流れる星は生きている (偕成社文庫)

著者 :
  • 偕成社 (2015年7月23日発売)
4.22
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本棚登録 : 153
感想 : 13
5

体験に圧倒されて一気に読んだ。体験自体の凄さもあるが、文章の力がとても大きかったと思う。おかげで、引き揚げの様子がありありと目の前に浮かんできた。行動、言葉、心の中どれも臨場感あふれるものだった。
著者のお名前や本作も有名すぎて、逆に手に取るのがこんなに遅くなってしまった。引き上げを描いた作品はいくつも読んでいると思っていたが、いやいや、私は引き揚げ=引き揚げ船、というふうにイメージが定着してしまって、引き揚げの苦労は引き揚げ船の苦労みたいなイメージだった。どう考えても間違ってる。釜山から博多の間、そんなに長い時間のわけがない。陸路が大変だったに決まっている。確かに何冊かは読んでいるはずなのに、どういう記憶だ。
著者の力はすごい!どこをとっても、どう考えても到底私には乗り越えられそうにない。生まれたばかりの子供と3歳と5歳の男の子を連れて、ものすごく強い。最初は夫がいなくて不安で心細い普通の人に思えたが、頭も回るし、根性もあるし、気はしっかりしているし、機転は効くし、手先も器用だし、もう超人的だ。
あと印象的なのは、極限状態に置かれたときの人間の本性のようなもの。みんな自分が生きるのが必死で他人のことまで構っていられなくなる。それがまたすごくうまく書かれている。
子供が邪魔者扱い、子供連れが邪魔者扱いされるのは現代に始まったものではないのだと思えた。昔から子供を大切になどと思っていない。子連れに手を貸そう、助けようなどという人はほとんどいない。
戦争で亡くなった兵士(男性)ばかりでなく、女性もどんなに大変だったか。
そしてあとの解説を読んで、「こんなに大変だったのだから、戦争は絶対ダメだ」と思う時、つい日本人のことだけを考える。それでは全然ダメだということはわかっていたつもりだったけどわかっていないことに気付かされた。朝鮮半島が南北に分断され、今なお解決しないのは何が原因なのか。忘れてはいけない。
忘れてはいけないことがたくさんありすぎて追いつかない。
この本の感想も書き尽くせない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月8日
読了日 : 2020年9月8日
本棚登録日 : 2020年9月4日

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