新装版 天璋院篤姫(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2007年3月15日発売)
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本棚登録 : 1618
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島津家の分家から島津宗家の幼女となり、13代将軍家定の御台所となった篤姫。家定亡き後も大奥3000人の女中を見事統率し、幕末の動乱のなか最後まで徳川家の再興を願って婚家に尽くした。政治の駒になり時代に翻弄されながらも、ちから強く生き抜いた女性の運命を、宮尾登美子氏が流れるような美しい日本語で描きます。武士顔負けの篤姫の潔い生きかたは、ドラマも良いですが、ぜひ原作の文章で味わっていただきたい。

女性が自分の道を決められなかった時代です。身分の高い家に嫁いだ若いむすめが、未亡人となったのちも嫁として姑としてもんもんと苦悩するなんて、なんとも陰湿な話になりそうですが、やはり宮尾登美子氏の文章は面白く、主人公のやるせない思いとか可哀想なほどの健気さが、何一つ実を結ばないまま彼女を取り巻く状況にうわぁぁぁっと押し流されていく様子がありありと感じられるうちに、いつのまにか物語に惹き込まれてしまいます。

見どころは小説の終盤、篤姫が、実家薩摩とたとえ敵になっても徳川家を守るという使命感で腹をくくる場面かと。

このことは菅野美穂主演の「大奥」では、徳川家に嫁ぐ前までは想いを寄せあった幼なじみが江戸城開城のおりに迎えに来ても、生涯を通して故郷薩摩に戻ることは無かったというシーンに表されていますし、本書では、薩長が江戸城に攻め入る噂を聞きつけて恐れおののく女中たちに向かって、自分は実家と婚家が戦火を交えようとも徳川家を離れはしない。「これが真の女の道であることはいまさら申すまでもないことじゃ」と言い放つ件に集結されています。ここまで篤姫が凛々しいと、読者もひと昔前の女性は気の毒うんぬん言う気も失せ、彼女の意志の強さにひたすら感服することになるでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ・・日本史
感想投稿日 : 2012年1月3日
読了日 : 2011年3月5日
本棚登録日 : 2011年12月24日

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