「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?

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  • イースト・プレス (2018年2月11日発売)
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これから「成熟した」大人になる若者、おそらく20代~30代に向けての心得のようなものが書いてある。お説教一歩手前というか、若者を諭しているかのようだ。かつての自分に向けて書いたようにも読める。全体としては真摯で誠実な印象を受けた。

そもそも「大人の定義」が難しい時代だと思う。大人の定義がわからなければ大人に成りようがない。かつては「大人像」が明確だった気がするし、若者が大人になるようなシステムが社会の中に用意されていたのだろう。大人が当たり前だったが故に、「大人の定義」が問われることも殆どなかったのではないか。80年代末、大人になれないことに自覚的だった松尾スズキが立ち上げた劇団名が「大人計画」だったのは象徴的だ。

いろんな人が多様な大人像を提示する中、この本では、自分の自由や成長、可能性はある程度あきらめて、自分の後に続く子供や後輩等を世話する者を大人として定義している。本の中でこの「大人」の定義が若干ゆらいでいる部分はあったが、数あるまっとうな大人像の中の一つだと思う。思想的にはマイルドな保守の印象も少し持った。そもそも「大人」とリベラルは相性悪そうだ。

恋愛の章は少々お説教くさいかなと思った。興味深かったのが趣味の章。趣味の捉え方が私と違っていて興味深かった。単に飽きたり、おもしろさよりも負担の方が苦しかったらやめたらいいだけの話だと思うが、かなりの葛藤を抱えたような文章になっている。自分はあっさりしているのかもしれない。ここで書かれた文章は、ゲームやアニメ等のサブカルチャーとそのコミュニティが念頭にあるのだろうが、他の趣味には当てはまらない部分も多いだろう。例えば釣りとか。

巻末に大人になれなかった人向けの慰めっぽいことが書いてあるが、私は著者よりも少し年上で、後に続く誰かの世話をする機会もなく、したがってサポートする喜びも感じたこともない、何者にもなれなかった独身中年だ。この本の定義する大人にはなれなかった。しかしこの本で定義されたのと異なる大人像を体現することはできるかもしれない。そういう意味では自分にも大人になる道は残されている。

人生が迷子になっている元ITエンジニアとして、「教える」を仕事にできるかどうか迷っている身としては、そこに進む道を補強する話でもあった。ITエンジニアと「大人」は相性が悪い。この先、自分はどうすればよいか?を考えているだけなのだが、教えることを仕事にすることで、成熟に繋がる可能性はある。教える立場は自己肯定感も上げるだろう。うまくいけば。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年5月15日
読了日 : 2023年5月15日
本棚登録日 : 2023年5月7日

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