友達から好きなエッセイって何?っと聞かれると
高山なおみさんの「 帰ってから、お腹がすいてもいいように と思ったのだ。」
と沢木耕太郎の「バーボンストリート」と共に必ずオススメしてた一冊。
まぁ、好き過ぎてレビューが書けなかったってやつで、
満を持しての登場です(笑)(^^;)
気取らない下町で暮らす
女一人暮らしの日々が
ただただ淡々と書かれているだけ。
ただそれだけなのに
切なくてあったかくて甘やかで、
夕焼け空を見た時のような
妙に懐かしい気持ちになる。
商店街に巣を作り、毎年飛んでくるツバメと
掃除のおじさんの話。
町のルールを教えてくれる裸の先生がいる銭湯の話。
それぞれ味の違う下町豆腐屋巡礼と古着屋の話。
石田さんの家出遍歴とお餅の話。
ビジンさんとぶすこちゃんという野良猫の話。
鮭をとって暮らしている大男とお茶の話。
動く浮世絵のような、チャチャ姐さんという猫の話。
河原で吹くトロンボーンとそれを聞くカラスの親分の話。
ドラマチックな出来事なんて
何一つ起こらない。
地に足を付けた暮らし。
自由気ままな生活のリズム。
この心地よさにページをめくる度
肩の力は抜け、心ほどけていく。
不動産屋の軒下に急降下するツバメ。
早朝に駅前で鳩に餌を撒くおじさん。
一つ九十円の豆餅と六十円のおいなりさん。
クリームパンのようにぽってりした夜中の満月。
白いアパートの庭のバスケット・コート。
浄水槽から飛び出した大輪のバラ。
ほったらかしの味がする枇杷の実。
暮れなずむ頃、町に流れる夕焼け小やけの歌。
ほどよく汚い、やもめ酒場で見るプロ野球のナイター。
寒い季節の今川焼き屋の行列。
昆布と梅干しと生姜の夏風邪スープ。
パン屋の時刻表を頼りに焼きあがるのを待つライ麦パン。
松の剪定をする粋なハッピ姿のおじいさん。
「魂は細部にこだわってこそ、宿る」とはクドカンの名言だけど、
石田さんの「この町が好きだ」という愛情からくる詳細な情景描写と観察眼に、
読んでいるうちに
誰もがこの町の住人となり、
脳内でコロッケ片手に猫を追いかけ、
石田さんが歩いた商店街を追体験できる、この幸せよ(笑)
思い出って、
実はつまんないことの方がよく覚えてたりするものです。
旅行行って腹壊して寝込んでたこととか、葬式の間中おならを我慢してたこととか(笑)
あとになってみると、
日常の中のどうでもいいことやくだらないことが
本当は一番強くてあったかい。
ドラマチックじゃなくても、
誰も死ななくても、
人や自然と触れ合い、
小さな生き物に目を向け、
大いに食べ、悠々と町を歩き尽くす
石田さんの生き方は、
小さな幸せの積み重ねこそが
大きな幸せに繋がり、
町は生きて日々違うことを教えてくれる。
簡単に読めちゃうページ数の本だけど、
できれば木漏れ日射す公園のベンチや
缶ビール片手に河原で草野球でも見ながら、
少しずつ少しずつ味わって欲しい
至福のエッセイです。
- 感想投稿日 : 2014年1月2日
- 読了日 : 2014年1月2日
- 本棚登録日 : 2014年1月2日
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