月と菓子パン (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年7月30日発売)
3.65
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本棚登録 : 464
感想 : 69
5

友達から好きなエッセイって何?っと聞かれると
高山なおみさんの「 帰ってから、お腹がすいてもいいように と思ったのだ。」
と沢木耕太郎の「バーボンストリート」と共に必ずオススメしてた一冊。

まぁ、好き過ぎてレビューが書けなかったってやつで、
満を持しての登場です(笑)(^^;)


気取らない下町で暮らす
女一人暮らしの日々が
ただただ淡々と書かれているだけ。

ただそれだけなのに
切なくてあったかくて甘やかで、
夕焼け空を見た時のような
妙に懐かしい気持ちになる。


商店街に巣を作り、毎年飛んでくるツバメと
掃除のおじさんの話。

町のルールを教えてくれる裸の先生がいる銭湯の話。

それぞれ味の違う下町豆腐屋巡礼と古着屋の話。

石田さんの家出遍歴とお餅の話。

ビジンさんとぶすこちゃんという野良猫の話。

鮭をとって暮らしている大男とお茶の話。

動く浮世絵のような、チャチャ姐さんという猫の話。

河原で吹くトロンボーンとそれを聞くカラスの親分の話。


ドラマチックな出来事なんて 
何一つ起こらない。

地に足を付けた暮らし。
自由気ままな生活のリズム。

この心地よさにページをめくる度
肩の力は抜け、心ほどけていく。


不動産屋の軒下に急降下するツバメ。
早朝に駅前で鳩に餌を撒くおじさん。
一つ九十円の豆餅と六十円のおいなりさん。
クリームパンのようにぽってりした夜中の満月。
白いアパートの庭のバスケット・コート。
浄水槽から飛び出した大輪のバラ。
ほったらかしの味がする枇杷の実。
暮れなずむ頃、町に流れる夕焼け小やけの歌。
ほどよく汚い、やもめ酒場で見るプロ野球のナイター。
寒い季節の今川焼き屋の行列。
昆布と梅干しと生姜の夏風邪スープ。
パン屋の時刻表を頼りに焼きあがるのを待つライ麦パン。
松の剪定をする粋なハッピ姿のおじいさん。

「魂は細部にこだわってこそ、宿る」とはクドカンの名言だけど、
石田さんの「この町が好きだ」という愛情からくる詳細な情景描写と観察眼に、
読んでいるうちに
誰もがこの町の住人となり、
脳内でコロッケ片手に猫を追いかけ、
石田さんが歩いた商店街を追体験できる、この幸せよ(笑)


思い出って、
実はつまんないことの方がよく覚えてたりするものです。 

旅行行って腹壊して寝込んでたこととか、葬式の間中おならを我慢してたこととか(笑)

あとになってみると、
日常の中のどうでもいいことやくだらないことが
本当は一番強くてあったかい。

ドラマチックじゃなくても、
誰も死ななくても、
人や自然と触れ合い、
小さな生き物に目を向け、
大いに食べ、悠々と町を歩き尽くす
石田さんの生き方は、

小さな幸せの積み重ねこそが
大きな幸せに繋がり、
町は生きて日々違うことを教えてくれる。


簡単に読めちゃうページ数の本だけど、 
できれば木漏れ日射す公園のベンチや
缶ビール片手に河原で草野球でも見ながら、
少しずつ少しずつ味わって欲しい
至福のエッセイです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2014年1月2日
読了日 : 2014年1月2日
本棚登録日 : 2014年1月2日

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コメント 3件

アセロラさんのコメント
2014/01/02

あけましておめでとうございます♪今年もよろしくお願いします^^
年明けから丁寧なお言葉の数々。ありがとうございます。
後ほどレスさせていただきますね。

さて、好きなエッセイって何?って、このお友達の質問、センス良いですね(笑)わたしなら何かな〜…。小説よりエッセイ読みだと自分で思っているのですが、すぐには思い付かないです(^^;

この本、エッセイなんですか!まるで短編小説のような素敵な情景描写がたくさんですね(^ー^)
「クリームパンのようにぽってりした夜中の満月」だなんて、思わず夜空に手を伸ばしたくなりそう(^^ゞ

円軌道さんの今年の100冊読破の目標が達成出来ますように★
今年もまたちょこちょこ本棚にオジャマしますね(^^ゞ

円軌道の外さんのコメント
2014/01/13


アセロラさん、こちらこそ
いつも楽しく素敵なコメントありがとうございます!(^o^)

アセロラさんは連休楽しめましたか?

自分は珍しく二連休がとれたので
いつもなら喜び勇んで遊びに出るんやけど、
正月にお金を使い過ぎて
泣きたいくらいの金穴で(笑)、
おかげでこの二日間は珍しく
ゆっくりまったりと本を読むことができました(^_^;)
 

自分は普段エッセイを好んで読む方じゃないんやけど、
エッセイって作家の素が出るし
それだけにその作家を好きになるかどうかの一つの指針にもなりますよね。

どんなけ作品が良くても
その作家の人間性が好きになれなければ
次に読もうとは思わなくなるし(笑)

作家にとっても
実はエッセイってコワい存在でもあるし、
苦手な人も多いみたいですね(笑)


この作品はホンマに
なんてことはない一人暮らしの女性の
日常を綴っただけの内容やけど、

アセロラさん御指摘のように
詳細な町の情景描写と石田さん独特な感性と目のつけどころに
読んでいて心ほぐれていくんです。

てか、
「クリームパンのようにぽってりした夜中の満月」だなんて、思わず夜空に手を伸ばしたくなりそう
という、アセロラさんの素直な感性も
微笑ましいし、
ほっこりさせてもらいましたよ(笑)(^^)


いつも本当に沢山の花丸と
あったかくて楽しいコメント
感謝感激です!

こちらこそ、アセロラさんの
その素直な感性で書かれた素敵なレビューを
今年も楽しみにしてます!

改めてよろしくお願いします(^o^)







円軌道の外さんのコメント
2014/01/13


まっき~♪さん、
遅くなりましたが、
明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします(^o^)



そうなんですよ!
エッセイって本当に人に勧めづらいですよね(汗)

まっき~♪さんの言うように
書いてる内容や
素の作家の姿によって
好き嫌いは分かれるし…

しをんさんのエッセイ読んだ時は
えーっ、イメージしてたキャラと違い過ぎて
「ホンマにこの人が書いてんの!?」って
失礼ながら思ったし(笑)(^_^;)


穂村さんのエッセイは
立ち読みでチラッとしか読んでないんですが、
人目を気にしつつも
かなり笑ったのを覚えてるし(笑)

今年はちゃんと読んでみたいなぁ(^^)



あははは(笑)
いや、ホンマに
ドラマチックな出来事なんて 
何一つ起こらないけど、
読めば近所の商店街探索をしたくなるほど、
何気ない日常の有り難さや
小さな幸せを切り取って見せてくれるんですよね。


今はまだ寒いので、
もう少しあったかくなったら、
この本片手に
外の日差しの下で読んでみてください。

少しだけ
いつも見慣れたハズの町の景色が
変わって見えると思いますよ( ^-^)

こちらこそ、
まっき~♪さんの素敵なレビュー
楽しみにしてます!

お互い良い年にしましょう!

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