新人賞受賞作です。どんな作風なのかな?と開拓気分で購入。ところがですね、これが予想以上に読み応えがあって、ぐいぐい引きこまれてしまったんです。
♂同士ということを除けば、どこにでもいそうな大学生の恋人同士の武彦と冬至。
ストーリーは、武彦とのデートに向かう途中で冬至が事故で死亡するところから始まります。自分が死んだことに気付いた冬至は、死神から一つだけ願いを叶えてくれるときいて、もう一度、人生をやり直したいと頼みます。生き返ることはできないんです。再び同じ日の同じ時刻に死ななくてはいけないんです。だったら、なぜ?と思いますよね…
死を扱っていながら、どんより落ち込まない不思議な持ち味。
死神が登場してファンタジーな部分があるせいかと思いましたが、それ以上に青春とか恋愛について深く考えさせられるものがあったからかな…と。まっすぐでピュアな想いが、物語全体にあふれかえっているんですよね。
前半の「イエスタデイをかぞえて」は、冬至視点で彼のやり直し人生が描かれています。外見からは、ただ何となく楽しく生きていただけに見えた冬至ですが、根底には優しさや思いやり、そして強さがあったんだなと、だんだんわかってきます。
独りにしてしまった武彦を悲しませたくないから二人の関係をなかったことにしようと、あれこれ努力してみる冬至が、どれだけ相手のことを愛しているかがわかって、胸に迫るものがありました。態度とはうらはらな想いに、切なくて泣けました。
そして「イエスタデイをひろって」では、武彦視点で冬至を想う気持ちがあふれんばかりに描かれているんです。どうして、どこにも共通点がなさそうな相手をこれほどまでに一途に好きになったのか、やっと腑に落ちました。
素晴らしいんですよ、心理描写が。
武彦の気持ちが痛いほど伝わってきました。そして、もちろん冬至についても、どんどん印象が変化していくほどに。
冬至は男っぽいけど、意外に尽くし型。そして、王子と言われる武彦の実態も、納得の理由ですごくよかったです。
相手に対する深くて純粋な愛情は、他の何物にも代えがたいのだと、つくづく思わされた物語です。
せいいっぱいの愛に、感動しました。
これからも、様々な感動をくれそうで楽しみな作家さんです。
- 感想投稿日 : 2013年9月4日
- 読了日 : 2013年9月4日
- 本棚登録日 : 2013年9月4日
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