著者は、ウォーラーステインが唱えた世界システム論を研究する川北稔氏です。著者の専門がイギリス史であることからも、本書は特にイギリスについて多くのページを割いています。世界各国が、セパレート・レーン上を一つのゴールを目指して競争していると考える「単線的発展段階」論がいかに間違っているかが本書を読むと分かります。世界の歴史は「一国史観」で語るには無理があり、代わりに「近代世界システム」論によって、より事実に即した説明が出来るというのが本書の一貫した主張です。つまるところ、各国は歴史上常に自立していた訳ではなく、「世界(=ひとまとまりの地域)」の中で、ある種の相互関係を築き、ある国は「中核」へ、ある国は「周辺」へと押し合い、へし合いながら進んできたといったような事が述べられています。全体として分かりやすく丁寧に書かれていますが、その分、内容一つ一つを深く掘り下げるには至っていません。しかし、興味がわく刺激的な内容でしたので、是非著者の別の著書にも挑戦したいと思いました。また、イギリス以外の歴史については、やはり別の著者などに頼りながら学習すべきですね。
なお、本書を読むにあたり、併せて知っておきたい事は、やはり一時期日本の歴史学で流行した「戦後史学」、とりわけその第一人者である大塚久雄でしょう。本書においてこれらはまさに「仮想敵」と言える存在ですね。また、マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」もまた、今の団塊世代あたりのインテリに読まれたらしいですが、本書とは真逆のイギリス史観を示す書籍として挙げられます。特にウェーバーは、今でも多くのインテリに人気でありますから、これにあまり熱狂的に盲信しすぎないよう、本書がブレーキをかけてくれます。
なお、近年では世界システム論のさらなる発展として「グローバル・ヒストリー」なる潮流も見られるようです。併せて学習すると良いかも知れません。
- 感想投稿日 : 2017年8月21日
- 読了日 : 2017年8月21日
- 本棚登録日 : 2017年8月21日
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