31文字のなかの科学 (NTT出版ライブラリーレゾナント053) (NTT出版ライブラリーレゾナント 53)
- NTT出版 (2009年6月25日発売)
新聞記者として科学の前線を追ってきた著者が編む、人と科学の短歌エッセイ。
著者が記者ということもあってか、文章がやや説明的にすぎるように感じたり、事実や現状が型にはまった言い回しに聞こえたりしたところもあったが、視点としてはかなり面白い試みだったと思う。
文章で書いてしまえば「今さらそんなこと」と思うような科学的発見や犠牲(困難?)も、歌にすると非常に感覚的に受け取ることができて、科学の柔らかくデリケートな側面を今までとは違う視点で見ることができた。
たとえばクローンのことを詠んだこんな歌。
ぼたん雪 夭折の子のクローンが生まれたらなほ悲しからむよ
――米川千嘉子
これをただ単に「クローンが短命で死んだら、どっかで『やっぱり』と思うよね」と言ったら、それは科学をできすぎた人間の知恵として嘲笑っているようにしか聞こえない。
しかし、このように「歌」で読むと全く違った意味合いに聞こえるのだから、不思議なものだ。厚ぼったい、けれども白くはかない「ぼたん雪」が冒頭にぽんと置かれているのが効いている。
好きな歌はいくつかあったのだけれど、やっぱり加藤治朗さんの歌が抜きん出て素晴らしい! と思った私であった。
脳死を扱った二首が載っているので、それを抜粋。
あるヒトの脳死は待たれほしいまま刻まれてゆくつめたいトマト
いまきみの脳は機能を失ってぬれたガーゼに包むみつばち
――加藤治朗
ちなみに、装丁はクラフト・エヴィング商會です。
- 感想投稿日 : 2011年7月23日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年7月23日
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