読んでからずいぶん経ってしまったけれど……ここに収録されている「土佐源氏」を読んで、『忘れられた日本人』を購入した。

「漁師の娘」徳富蘆花
透き通った文章が美しく、まさに<風>のアンソロジーにふさわしい作品。
きりりと引き締まった風に身も心もあずける哀しさ。私はいったいどこにいるの? 私はいったい誰なの? 答えは風の中、どこへでも、どこかへ行く。

「土佐源氏」宮本常一
読んでいる間に、あまりに情が濃ゆくて、全然悲しい話ではないのにぼろぼろぼろぼろ泣いてしまった。
作中の馬喰は、まさに<風来の人>。根なし草の生活者。どこへでも行ける人、でもどこにも根を張れない人。そんな人だからこそ、人と情が通った瞬間が何物にも代えがたい。

「みなかみ紀行」若山牧水
旅の歌人、若山牧水。牧水の歌はその滔々とした清水のように流れる(酒の歌人でもある!)歌が好きだったものの、その紀行記(随筆)を読むのは初めて。描写される景色がしみじみと美しい。こういう風に歌を詠んでいたのか~、と思いながら楽しんだ。

2014年9月2日

読書状況 読み終わった [2014年7月19日]

梅﨑春生『庭の眺め』 
スタインベック『白いウズラ』 
岡本かの子『金魚撩乱』

スタインベックの作品がとてもよかった。
精神の輝きを悟っている直感的な妻、その妻を愛しつつも理解できない夫。散文と言うよりは、半分詩のような短編として読んだ。
妻の美しさ、その精神的世界は理屈ではなく、それを説明する文章もまた理論的なものではない。しかし、直感的なきらめき、自分でないものを自分の分身として感じとりキャッチする彼女の力には、それだけで不思議な世界観を感じる。
それゆえに、それを理解できないと苦しむ彼女の夫の苦悩がより迫ってきて、とてもよかった。

梅﨑春生の短編は、淡々としつつどこか剣呑な感じがするのが油断できない。アンソロジーの最初の話としてふさわしい。

岡本かの子の話は、私にはあまり入り込めなかった。どうも私は、岡本かの子という作家自体があまり好きではないようだ。
彼女の作品には、独特の「絢爛さ」を感じる。華がある。しかし、どうも私は、その華に魅力を感じないらしい……。

2013年9月1日

収録作:
「革トランク」「ガドルフの百合」宮沢賢治
「嘘」「狐の子供」与謝野晶子
「ある孤独な魂」「せまい檻」「沼のほとり」「魚の悲しみ」エロシェンコ

全体的に、「嘘」というよりは「真実を透かして見ること」あるいは「真実は嘘によってあぶりだされるということ」という印象。

私は宮沢賢治はあまり好きではないのだけど、読むたびに唸ってしまう。彼のすごさは、誰も「真似できない」ところだと思う。というか、真似をしたら圧倒的に陳腐になってしまうだろう。

与謝野晶子の「狐の子供」が一番好きだった。彼女の生真面目さ、潔癖さ、そして少女らしい尊大な自負心に共感する。

エロシェンコは童話風のものよりも、実録エッセイ風の「ある孤独な魂」が私は圧倒的に好きだった。
疑り深い、いや真実を求めるが故に疑り深くならざるをえなかったエロシェンコの魂は、孤独であっただろう。その孤独のしみじみとした静かさに、胸が詰まる。

2013年6月8日

読書状況 読み終わった [2013年6月2日]

島木健作『煙』
ひりひりする悲しさ。
自分の頼りなさ、おぼつかなさが、身にしみて痛い。自分が役立たずだということを、淡々と描く筆致が○。

ユザンヌ『シジスモンの遺産』
笑わせていただきました。そういう意味で「傑作!」

佐藤春夫『帰去来』
一文がながーい文章に、飄々と漂うユーモア。
とぼけたふりして、あっさりさよなら。


3作異なった味わいで面白かった。
ただ、この百年文庫はいったい誰が編集しているのだろう? 編者は誰?
せっかく『本』というテーマで編んであるのだから、何か一言くらいこの『本』という一冊について言及があっていいのではないだろうか。

アンソロジーは、編者の意図を読むのも読者の楽しみの一つだと思うので、非常にもったいないと思う。もったいないというか、惜しい、かな。

2012年2月2日

読書状況 読み終わった [2012年2月2日]
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