DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール

  • ダイヤモンド社 (2020年9月30日発売)
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【感想】
本書の主張は、「死んだあとにお金を持っていても意味が無いから、その分若いうちに経験を買っておくべき」という非常に明快なものである。

ただし難しいのは、「いったい何をもって有意義な経験と言えるのか」ということである。筆者自身は「ゼロで死ね」を実践するあまり、若いころに浪費しすぎたことを反省している。聞き分けられないほど高性能のステレオを購入したり、味の違いがわからないのに高級レストランで食事をしたりしていた。筆者いわく「リスクを取る価値のないものに散財していた」らしい。
では、その代わりの「リスクを取ってもいい経験」とはなにか。筆者は「今しかできない経験」のことだと述べているが、その具体的な定義は難しい。高性能のステレオは買うのが早ければ早いほどいい。若い耳のほうが広い音域を聞き取れるし、早めに買う方が残りの人生でずっといい音を楽しむことができるからだ。高級レストランも同様で、若い時のほうが舌は敏感だから、年を取るほど経験の価値が下がっていく。
「今しかできない経験」の代表例と言えば、海外旅行やスポーツなど体力を使うアクティビティだろう。また、子どもを産み育てるという経験も若い時分ならではのイベントである。
そういうふうに広く模索していくと、「自己投資」と定義できるものについては結局「なんでも早めが得」という結論に至るのかもしれない。数々の趣味を検討しつつ、生み出せる価値や今後の生産性を見積もって優先順位を決めていく。そうした「自分にとって譲れない価値は何か」というのを決めることが、「ゼロで死ぬ」計画の大前提にあるということを忘れてはならない。

それにしても、何故人はお金をいっぱい持っているのに貯金をし続けるのだろうか。「貯金という行為そのものが楽しいから」という理由もあると思うが、一番大きい要素は、「何をすべきかわからない人にとっては、貯金が一番安牌で合理的な選択になるから」だと思っている。
本書は徹底的に「効率」を押し進める本である。金があるのであれば若いころの経験に振り分け、そこから得られる配当を長年に渡って受け取り続けたほうがいい。時間という複利を最大限に活用するために、あえて資産を腐らせておくような選択は避けるべきだというのが本書の論旨である。
だが、夢中になれる経験を探したものの、見つからないかそれでもなお金が余る場合は、貯金に振り分けておくのが一番いい「効率」になる。
死ぬまでにやりたいことを探すのは長丁場になる。本書でも「45~60歳の間に、もう一度やりたいことリストを整理するといい」と述べているとおり、ライフステージの途中でいきなり違う目標が増え始めることもおかしくない。であるならば、今やりたいことがどうしても見つからなかった場合は、いずれ使うかもしれないイベントに備えて資金繰りをしておくことが、最大の効率となる。

とは言っても、貯金はあくまで飢え死ぬのを防ぐための命綱にすぎない。貯金は気にするほうがいいが、気にしすぎるのは損だ。「今月いくら使ったかわからないけど、将来的に破綻しない程度にお金は貯められている」程度の感覚で暮らしていくのが、バランスの取れた人生を歩めるのかもしれない。

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【まとめ】
1 今しかできないことに投資する
金を無駄にするのを恐れて機会を逃がすのはナンセンスだ。金を浪費することより、人生を無駄にしてしまうことのほうが、はるかに大きな問題である。
大切なのは、自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまず金を使うことだ。
時間と金という限りある資源を、いつ、何に使うかで、豊かな人生を送れるかどうかが決まる。

金は「ライフエネルギー」を表すものだ。
ライフエネルギーとは、人が何かをするために費やすエネルギーのことであり、働くときも、この有限のエネルギーを使っている。
仕事で得た金は、それを稼ぐために費やしたライフエネルギーの量を表している。給料の額は関係ない。1時間働いて稼いだ8ドルであれ20ドルであれ、それを使うことは、1時間分のライフエネルギーを使ったことになる。

収入と時間の問題であれ、食事と運動の問題であれ、ライフエネルギーを意識すれば、衝動的、習慣的に行動せず、理性的に判断しやすくなる。
そして、金のために仕事や物質の奴隷になってはいけない。

最大のポイントは、経験の価値を信じることだ。経験には金がかかるが、それは使う値打ちのある金だ。今味わえるはずの喜びを極端に先送りすることには意味がない。経験(それも、ポジティブな)を最大化させることを目指す。
現実には金を稼ぐという中間のステップを踏まなければならない。すなわち、ライフエネルギーのいくらかを仕事に費やし、それによって得た金で経験を買うことを計画しなければならない。


2 経験に金を使う
人生は経験の合計である。豊かな経験を繰り返すことで、記憶が増え、そこから得られる配当が増す。その経験が早ければ早いほど、今後何十年にも渡って配当が得られ続けることになる。
老後の備えは必要だが、老後で何より価値が高まるのは思い出だ。なるべく早い段階で経験に投資すべきだ。


3 ゼロで死ぬ
莫大な時間を費やして働いても、稼いだ金をすべて使わずに死んでしまえば、人生の貴重な時間を無駄に働いて過ごしたことになる。その時間を取り戻すすべはない。生きているうちに使い切れない金を稼ぐということは、タダ働きしていることになる。
生きているうちに金を使い切ること、つまり「ゼロで死ぬ」を目指してほしい。
そうしないと、人生の限りある時間とエネルギーを無駄にしてしまう。

注意してほしいのは、将来のために貯金すべきでないと言っているわけではないことだ。必要以上に貯め込むことや、金を使うタイミングが遅すぎるのが問題だと言っているのだ。
スイートスポットを超えても、依然として貯金を続ける人が多い。たとえば純資産の中央値は、世帯主が55歳の家庭の場合は18万7300ドルなのに対し、65歳の場合は 22万4100ドルと増加している。さらに、なんと70代になっても人々はまだ未来のために金を貯めようとしている。70代後半になっても、この年代の人々の貯蓄は減り始めない。世帯主が75歳以上の家庭の純資産の中央値は、すべての年代のなかでもっとも高い26万4800ドルとなっている。つまり大勢の人は、苦労して稼いだ金を自分より長生きさせようとしていることになる。

高齢者は医療費を考えて貯蓄する傾向にあるが、世帯全体の支出は医療費を含めても年齢とともに減少する傾向にある。

現役時代に「老後のために貯蓄する」と言っていた人も、いざ退職したらその金を十分に使っていないのだ。しかも、老後の楽しみのために取っていたとしても、体力が衰えていくため思うように動けなくなるばかりか、そもそも金を使おうという気持ちそのものが薄れていく。

今の生活の質を犠牲にしてまで、老後に備えすぎるのは大きな間違いなのだ。


4 子どもに残しておくぶんは?
ゼロで死ぬことについて話すと、「子どものことはどうするの?」という真っ当な質問が来る。これに対して私は、子どもたちに与えるべき金を取り分けた後に残った、「自分のための金」を生きているうちにうまく使い切るべきだと主張している。

そもそも子どもたちには、あなたが死ぬ前に財産を与えるべきだ。子どもたちにとっても、若い頃に大金を得ていたほうが価値が増すからだ。
そのため、どれくらいの財産を、いつ与えるかを意図的に考え、自分が死ぬ前に与えよう。タイミングとしては、子どもが26〜35歳のときがベストである。金を適切に扱えるだけ大人になっているし、金がもたらすメリットを十分に享受できるだけの若さもある。

だが、より貴重なのは金よりも子どもとの経験だ。幼少期に親から十分な愛情を注がれた人は、成人後も他人と良い関係を築け、薬物中毒になったりうつ病を発症したりする割合が低くなる。金を稼ぐことと大切な人との経験をトレードオフの関係として定量的にとらえ、自分の時間を最適化することだ。


5 健康問題
加齢に伴って浮上してくるのが健康問題だ。まだ健康で体力があるうちに、金を使ったほうがいい。金から価値を生み出す能力は、年齢とともに低下していく。経験から価値を引き出しやすい年代に、貯蓄をおさえて金を多めに使うのが良い。

年齢を問わず、健康ほど、経験を楽しむ能力に影響するものはない。健康は、金よりもはるかに価値が高い。どれだけ金があっても、健康をひどく損ねていたらそれを補うのは難しい。だが、健康状態が良好なら、たとえ金は少なくても素晴らしい経験はできる。
あらゆる年代で、健康の改善は人生を改善するのだ。


6 タイムバケット
タイムバケットは、人生の各段階の有限さを意識しやすくするツールだ。
まず、現在をスタート地点にして、予測される人生最後の日をゴール地点にする。それを、5年または10年の間隔で区切る。区間は、たとえば5年区切りなら「25~29歳」、10年区切りなら「30~39歳」といったものになる。これがやりたいことを入れる「タイムバケット」(時間のバケツ)となる。
次に、重要な経験、すなわちあなたが死ぬまでに実現させたいと思っていること(活動やイベント)について考える。私たちは誰でも夢を持って生きている。だが、単に頭で考えているだけではなく、実際にそれをすべて書き出すことが大切だ。折に触れて、このリストに新たな項目を付け加え、内容を修正していけばいい。また、このリストを作る時点では、金のことは気にしなくていい。

リストを作成したら、次はそれぞれの「やりたいこと」を、実現したい時期のバケツに入れていく。中には、人生の特定の時期に行ったほうがより満足度が得られるものもあるだろう。登山をするのには体力のある若い頃のほうがいいし、ラスベガスのカジノに行くには金のある中年以降のほうがいい。
物事にはそれを行うための相応しい時期がある。期間を明確にすることで、具体的な計画と「今やるしかない!」という実効性が生まれる。


7 資産を切り崩すタイミング
現在あなたが所有しているすべての資産(自宅、現金、株券、貴重な野球カードのコレクションまで)をリストアップしてみよう。それがあなたの総資産だ。
次に、負債(学資ローン、住宅ローン、自動車ローン)がある場合、これらを合計する。それを総資産から差し引いたものが純資産になる。
そして、この純資産は生涯を通じて同じではない。若いころはマイナスだが、年を取るごとにプラスに転じていく。

そして、人生のどこかのタイミングで純資産を取り崩していく。

死ぬまでに必要な金を大まかに計算すると、
(1年間の生活費)✕(人生の残りの年数)✕0.7
である。この額に到達すれば、資産を取り崩しながら生活する時期については考え始められるようになる。
人によってさまざまだが、ほとんどの人の場合、最適な資産のピークは45〜60歳の間に位置する。この範囲に差し掛かったら資産を取り崩すべきだ。それを過ぎると、経験のために金を十分に使い切れなくなる。
また、資産がピークに近づいているときに、やりたいことを見直すのがいい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月4日
読了日 : 2023年6月3日
本棚登録日 : 2023年6月3日

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