六人の嘘つきな大学生

著者 :
  • KADOKAWA (2021年3月2日発売)
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東日本大震災後の就職活動中に起きた事件。
ミステリだし犯人探しなんだけど、犯人が誰かという結論よりも人間心理を巧みに書いているところがとてもおもしろかった。

スピラリンクスという新進のSNS企業への最終選考。グループディスカッションに進んだ6名は、「皆で協力して良いディスカッションができれば全員内定もありうる」と言われ、6名で協力してディスカッションへの準備を進める。
しかしディスカッション間近になって「1名しか採用できない」と通知される。
ディスカッション当日に会議室に置かれた封筒からは、参加者の悪事を告発する内容の書類が出てきて、誰を推薦するのかは二転三転する…。

「人の多面性(見方が変われば評価も変わる)」
「人を信じること」
が大きなテーマだろうか。
犯人の動機も、「人の多面性」を無視して一部だけ切り取り見て、誤解に基づき偏った評価をしてしまっているから。これも就活生という混乱している時期だから起こってしまったことのように思う。湊かなえさんの「高校入試」の動機(高校入試をぶっこわす!)と似てると思った。

就活って、大変なんだろうね。
私はやってないけど、友達が就活しているのを見て私には無理だなと思った。今でも思ってる。
国家資格を取得して専門職として社会に出てからも、就活を経験してないから「多くの人が経験した難関を私は乗り越えていない、乗り越えた人たちより私は劣っているのだろう」というコンプレックスはまだある、40歳なのに。
それくらい、大学3年〜4年の間私のまわりの友達は就活一色だった!就活のために自分がどんな努力をしているのかを大声で宣言したり、他人に嫉妬したり、一喜一憂…。
今思うと、みんな近目になってたなと思う。
現実の世界でも、就活生の女子学生を狙ったリクルート名目の性犯罪が何件もあって。
悲劇が起こりやすい土壌なんだろう。
なんで日本の会社は今でもそんな方法を続けているのか?登場人物なりの答えも、書かれていました。うん納得。そうだよね。人が人を評価する、そんなに不安定なものはないよ。
裁判官が証拠と法律に基づいて何時間もかけて判断してもなお間違った判決を出すことがあるように、もっとふわっとした短時間の採用面接で面接官が人を見る目があるのかどうか?なんて、答えは自明。
だから「一番優れた人を採用する」という結果を出すことができないのは当然で、最初からどこかで妥協して採用活動をしている。
それなのに、就活生の立場からすれば、落ちた人と残された人の能力に差があった、残された人のほうが優れていた!と思ってしまう。
採用側と採用される側の認識に、そもそものズレがあるんだ。
犯人の愛したもの、私もそうであるべきだとは思うけど、世の中は生まれた時から不公平なんですよね…。
美しく生まれ優秀に育ち有名大学を卒業する立場にいる人が、公平を叫んでも「あなたは生まれつき恵まれてるからだよ」と冷めた気持ちになってしまう。

多くの人が通過した道(就活)だからこそ、この本は多くの人が興味を持つんだろう。
そして、正義感とはときに諸刃の剣。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2024年3月8日
読了日 : 2024年3月8日
本棚登録日 : 2024年2月24日

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