一心同体だった

著者 :
  • 光文社 (2022年5月24日発売)
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本棚登録 : 1085
感想 : 96
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山内マリコさんのこれまでの全ての本を読んだというわけではないし、有名作数作を読んだだけなんだけど、この本は「山内マリコの半生の棚卸し」とも言える内容なのでは。
コロナスランプを経て、久しぶりの本らしいです。それがこれ、傑作。

一心同体だったのは誰と誰?
それは、読者である私と、この小説の登場人物達です。

小学生から、40歳子持ち主婦になるまでの、女の半生。
昭和50年代生まれ、現在40の私にとって、この本は「これは私?あの子?なんで私のことが書いてあるの?」と思うような記述に溢れてた。
私も、小学生の時から、誰かへの妬みや羨望の入り混じった自分の嫌な部分を自覚してました。
高校は女子校で最高の青春をエンジョイして、大学ではチャラいサークルに入ってる子を軽薄だと心の中で軽蔑しながら、私は特別で私の世界は私にしかわからない私の分身のような友達が欲しいとか思っていたよ。
そして20代後半頃からは一般化していく自分。
そういう自分のことを、「こじらせ」とか可愛い言葉で片付けられないくらい嫌悪する気持ちもありながら、でも私は誰からも理解されない存在だ、と思っていた。
この本読んで、共感するとともに、あの頃の私って、小説に出てくるほど大衆的な、どこにでもいる存在だったんだなぁ…と。
これは別に強がりではなく、この本を40で読めて良かったよ。10代や20代前半で読んでたらダメージでかかっただろうけど、今なら自分は特別でもない性格も良くないふつーの人だと理解してるから、昔話として読むことができたもの。
どこにでもいる大衆的な、でも自分は特別だと思いたい女達の頭の中にあること、全部棚卸して本にしてくれてありがとう。

「頭の中にあるときは、全て傑作」という言葉があります。頭の中で考えているときは「これは傑作、私すげー」と思っても、実際文章や形にすると大したことない…ということがほとんどなわけです。
多くの人が考えたことあるようなこと、多くの人の思い出の中にあること(うちのタマ知りませんか?私も大好きだった。でも私の裁縫道具箱は、ケンケンチキチキレースでした。小学生の時から可愛い系のものを遠ざけようとする自意識に支配されていた…。)を言語化してロンド形式の連作小説にして、しかも傑作に仕上げるなんて、山内マリコさん天晴。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生き方
感想投稿日 : 2023年12月30日
読了日 : 2023年12月30日
本棚登録日 : 2023年12月10日

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