わかりあえない他者と生きる 差異と分断を乗り越える哲学(「世界の知性」シリーズ) (PHP新書)

制作 : 大野和基 
  • PHP研究所 (2022年3月16日発売)
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本棚登録 : 417
感想 : 28

新聞の寄稿やインタビューで時々読んで気になっていた、今の"哲学界の旗手"。
サブタイトルに「差異と分断を乗り越える哲学」とある。差別やSNS上での攻撃や戦争に至るまで、"分断"によって起こっている問題は多い。生きているからには他人との関わりを避けられない以上、どのように考えれば他人とむやみに傷つけ合うことなく過ごしていけるのか?他者とはどういった存在なのか?ということを語った一冊。
インタビュアーの大野和基さんと話している、その感じをですます調でもってきているので、読みやすい。(質問部分は書かれていない)

興味深い言葉はたくさんあった。
・他者によって訂正され、変わっていけるからこそ私たちは1人ひとり心を持ち、個人として存在できる。
・日本的な、みんなが戦いを仕掛けてくるような同調圧力は極端すぎる。"和平条約"が成立する余地、相手の違いをゆるして忘れることが必要。
・人生は有限であると理解すれば、ロックダウンは非倫理的。人生に一時停止はないのだから。
・倫理や哲学の古典を子どもたちに教え、ともに考える時間をもつべき。さまざまな社会問題について、ブッダなら、プラトンなら、何と言うだろうか?と。

「違いにこだわらない政治」のところは、なるほど・・・、と思う。理想の政治へのステップとして3段階を示している。
1.たとえば「女性の扱いに関して問題がある」、と大きな括りでとらえて問題を認識する。
2.しかし、女性の中にもいろいろな状況があり、究極的にはひとりひとり違う。細部に目を向け、違いにこだわって、それぞれの問題に対処する。
3.最終的には、女か男か意識する必要のない状況に達する。

民族についても同じことが言える。大切なのは段階を踏むこと。ステップ3が理想であることにはきっと多くの人が気づいているけれども、ステップ2をおざなりにするとマジョリティにもマイノリティにも不満が残ったままになってしまうんだな、と思う。
女と男、日本人とそうでない人、そういった違いへのこだわりからいずれ抜け出すんだ、という考え方が必要なのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・評論
感想投稿日 : 2024年2月1日
読了日 : 2023年12月31日
本棚登録日 : 2023年7月21日

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