進化心理学、進化倫理学に関する本。最新の脳科学の研究によると、人間の倫理観は脳の中にある根本的な道徳感情に由来する。また、物事の善悪を判断するのに、進化の過程で脳の機能として組み込まれた道徳感情が、人間の判断を左右し、ときに悩ませる倫理的価値観の基盤となっているようだ。
わずか110ページ余りの本書の中で、モラルファンデーション理論、オキシトシン、信頼ゲーム、公共財ゲームなどが手際よく紹介されている。日本でも進化心理学、進化倫理学に関する啓蒙書の書き手として有名なジョナサン・ハイト、ジョシュア・グリーンの研究紹介がコンパクトにまとめられており、彼らの本を読む際に参考にしたいところである。
一つ気になったのが、経済学批判がされている箇所。本書では、「『人間は利己的で合理的な生物である』として、人間の経済活動のモデル化が経済学で行われており、それが道徳感情の持つ人間の行動を捉え損なっている」と論難されているが、そんな経済学は大昔の経済学であり、現在の経済学では限界合理性の導入や行動経済学、神経経済学といった分野もあるので、藁人形的な批判に思えた。
経済学に関する記述は少し気になるところであるが、わずかなページ数のなかで、現在の進化心理学、進化倫理学の研究成果をざっと掴めるので、進化心理学、進化倫理学に始めて触れるにはいい本だと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
倫理学
- 感想投稿日 : 2020年11月15日
- 読了日 : 2020年11月15日
- 本棚登録日 : 2020年10月31日
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