「近未来小説」ということを忘れる。読み始めてから間をおかずに読了。そしてこの小説はそういう読み方のほうがいいと思う。
読んでいて名作『アルジャーノンに花束を』を思い出す。
結局元に戻ってしまったチャーリー・ゴードンに本書のような治療が施されたらどうなるだろうか、などと余計なことも考える。
「何かを得るには何かを捨てなければいけない」と成功法則の本ではよく言われる。
これは「自分がどんな選択をしてその結果どうなってもじたばたしない、失うものなど何もない」という、肝の座ったというかある意味切羽詰まって追い詰められた人間が一か八かで博打としてやる行動で、自分のようなプチリア充野郎は光も闇も速度のない生ぬるい現状でぬくぬくしているのが一番なのである。
本書の主人公はその賭けをするわけだが、彼が賭けに勝ったのか負けたのかは読み手の判断にゆだねられる。
私の場合は全編を通じて主人公に感情移入してしまったので(多くの人もそうなると思う)、結末は複雑な心境だ。
また、自己啓発書でよく言っている「あなたはいまのあなたでいい」という言葉がなんと薄っぺらいお花畑的発言なんだろうか、ということを再確認できるすぐれた小説。
終盤、主人公の周囲にいる人物の名前がジャニスとヘンドリックスという、オーバードースで死んだロックスターの名前なのがなんだか意味有りげ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2017年10月27日
- 読了日 : 2017年10月27日
- 本棚登録日 : 2017年10月27日
みんなの感想をみる