ぼけと利他

  • ミシマ社 (2022年9月15日発売)
4.16
  • (19)
  • (15)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 336
感想 : 25

2人の手紙のやりとりが1冊の本になっている。僕の母は、それほどぼけることもなく亡くなった。父は、身体が思うように動かなくなって、先に入院してしまったので、僕はぼけている父をそれほど実感することはなかった。妻の母が、義父がぼけて困ると言っている。年末年始、合計1週間くらいしか一緒に過ごさないので、僕にはそれほど大したことには思えない。同じことを何度も聞いてしまうとか、自分が薬を飲んだかどうかを忘れてしまうとか。とりあえず、運転免許は返上したので、その点での心配はなくなっている。本書を読んでいると、レベルの違うぼけ方が登場する。汚れたオムツをベッドの柵に干しているという話。夜中のテレビでそれを乾かそうとしている。すごい発想だし、それに気づく方もすごい。徘徊する老人に付き添う職員の大変さ。そりゃ、トイレにも行きたくなるでしょう。老人が動かした商品を元の棚に戻す。店員にもあらかじめ断りを入れておく。まあ、大変な仕事なわけだ。しかし、考えてみると、そういう仕事をしている人は何だか「生きている」という実感がする。デスクワークで情報だけを動かしているのとはわけが違う。ケアする方も、ケアされる方から何かを得ている。生かされている。効率なんか考えずに、どろくさく、生のお付き合いができると良いのだろうな。これは、きっと教育でも同じことなんだろうと思う。ブロッコリーをどうしてもブッコロリーと言ってしまうというおばあさんが探偵ナイトスクープに出ていた。小さな子どもにも同じような間違いがある。脳は次第に生まれたころの状態にもどっていくのかもしれない。しかし、何十年と生きてきたその歴史の重みは忘れないでいたい。ところで、伊藤亜紗さんの手紙には探偵ナイトスクープ案件がいくつもあった。工場の駐車場らしきところに置かれた物体の数々。ときどき配置換えもある。なぜ、何のために置かれているのか。新聞紙で作った兜をかぶって、雨の中駅から出て行ったおじさん。そして、伊藤亜紗を伊藤亜砂と確信犯的に間違って手紙を書いてよこしたばあば。もう、伊藤亜紗まつりで、1日で3本まとめて解決してほしいですね。伊藤さん、依頼してみませんか? (それと、内田先生の「複雑化の教育論」(東洋館)のときにも書いたけれど、どうしてノンブル(ページ番号)がノド(本の内より)に入っているのだろう。見にくいと思うのだけどなあ。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伊藤亜紗
感想投稿日 : 2022年11月27日
読了日 : 2022年11月27日
本棚登録日 : 2022年10月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする