夜の鼓動にふれる: 戦争論講義

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  • 東京大学出版会 (1995年4月1日発売)
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本書は、東大教養学部生を対象とした「現代思想」という総合科目の一つにおいて行われた講義録である。これは、人類社会において最もダイナミックな現象である「戦争」を、「現代思想」というプリズムを通して見る、また同時に、当代学問において最もダイナミックな知の形態である「現代思想」を、「戦争」というプリズムを通して見るという二重の試みである。

本書はただの「戦争論」ではなく、「夜の鼓動にふれる」とあるが、これは「光」のもつ意味、「闇」のもつ意味に関する考察が自ずと基調となっている。

「光」とは「啓蒙」であり、ヨーロッパの自己拡張としての「世界化」を推し進めるにあたって、主要な役割を担ってきた。これは、フーコーや他の論者などによる「視線の政治学」が明らかにしたように、「視覚」は西洋が世界を認識・支配するに当たって極めて大きな役割を果たした。

この視覚偏重の文化は「光」のメタファーで括られる理性、秩序、啓蒙などのカテゴリーが支配する堅牢な「昼の世界」を構築した。しかし、「昼」は「闇」つまり非理性、無秩序、野蛮や暴力の支配する「夜の世界」の存在を必然的に伴う。

そして、「戦争」とは、混沌の中で蠢く暴力に規定された「夜の世界」の現象に他ならず、これが「夜の鼓動にふれる」ことの必要性であり、かつこの思索的彷徨の導き手となるのは、「夜の思想家」バタイユ、レヴィナス、ブランショらである。

また、この「不穏な熱い<夜>」の考察は、ヘーゲル、フロイト、ハイデガーに関する緻密な考察を下敷きとして展開され、かつ「死の不可能性」としてのアウシュヴィッツ・ヒロシマ、さらには大衆社会、科学技術、植民地、「日常の戦争化=永遠戦争」としての「経済戦争」など広汎かつ多岐に渉る刺激的論考が続く。

随所に散りばめられるフランス現代思想における重要概念から構成される論理を理解するのは容易ではない。しかし、本書のテーマである「戦争」に限らず、「哲学する」とは一体いかなることであるか?という知的営為における根本的姿勢の次元への思念をいざなって止まない、特異かつ稀有な作品であると思う。

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感想投稿日 : 2012年6月20日
本棚登録日 : 2012年6月20日

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