久生十蘭短篇選 (岩波文庫 緑 184-1)

著者 :
制作 : 川崎賢子 
  • 岩波書店 (2009年5月15日発売)
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本棚登録 : 563
感想 : 52
5

初めて読む作家。
何かで紹介されていて興味を持ったか、購入して積読になっていた。
買っておいて良かったと思う。美文である。
初出はほとんどが終戦から5〜6年のもの。
まだ戦争の傷が癒えない時期で、戦争がらみの物語も多い。死が身近である。
悲劇的な話多く、伝奇的な要素もあるが、おどろおどろしさは感じられず、透明感がある。
描かれていることは無惨なのに、なぜか美しい。
『母子像』なども、戦時中サイパンでの日本人の悲劇はあったが、物語の中の本当の地獄はそこではないところにある。
『白雪姫』では、氷河のクレバスに落ちた女性の遺体が20年以上の歳月を経て生前のままの姿に凍り付いて出てくる。性悪な女だったが、魂は洗われ、男の胸の憎しみも長の年月に消え、浄化されたような結末だ。
ギャンブルにのめり込み、確立の研究に人生を費やす『黒い手帳』は、呆れるほどの執念に恐ろしさと同時に滑稽を感じる。
なかなかそこら辺にはない作品の数々だと思う。
先が知りたくてストーリーばかりを追ってしまったが、地の文章をもっと味わわなくてはと思った。
編者による解説は難しく、ほとんど研究者向け。
一般人としては、物語をただ味わいたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月30日
読了日 : 2023年12月30日
本棚登録日 : 2023年12月30日

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