屍者の帝国

  • 河出書房新社 (2012年8月24日発売)
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本棚登録 : 3390
感想 : 441
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途中まで何とも言えぬ憤慨、苛立ち、諦観をもって、それでもページを繰っていた。伊藤計劃という稀代の、早逝した天才の、プロローグを受け継ぐという歴史的な業に期待したハードルは当然とてつもなく高かった。死者としての伊藤計劃の頭脳をそのままインストールされた屍者=円城塔がつづる物語、つまり作者たち自体がメタ構造になっていることに興奮が高まらないほうがどうかしている。大変な企画だと思ったのだ。円城塔の知能の容積ならば必ず成し遂げられると確信してもいたのだ。
正直に言おう。まず、文章がへたくそだ。自身の観念世界の描写、つまり自作においてはそれは個性だし、作風として許されてもいいし、好みでもある。しかし、無理によせた特にアクションシーン、平場の人物の描写力不足はどうだ。伊藤を継ぐのならまずはここを抑えなくてはだめだろう。
次に、物語が絶望的につまらない。構成やプロットなどの問題ではなく、伊藤の物語の紡ぎ方は凡百のそれと一線を画す、まさに唯一無二であった。それを衒学的にこね回し、不要で笑えないパスティーシュに塗れさせ、平凡な、隔離されたSF界でのみ内輪受けするものとなってしまった。
単純に伊藤計劃が偉大なのは、「分かりやすく面白く。かつ前人未到で、テーマが深い」ことではなかったか。
それでも企画に満点をつけたい。上記のリスクをあえて受け立つことは称えてしかるべきであるのだから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説 長編
感想投稿日 : 2018年4月20日
読了日 : 2018年4月20日
本棚登録日 : 2018年1月9日

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