紙の月

著者 :
  • 角川春樹事務所 (2012年3月15日発売)
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   梅澤梨花(主人公)
 人がひとり、世界から姿を消すことなんかかんたんなのではないか
 タイのチェンマイに着いて数日後、漠然と考えるようになった。
 姿を消す、といっても死ぬのではない、完璧に行方をくらます、ということだ。

 「わかば銀行」で営業を担当し、多額の定期預金を集め、支店トップセールスを誇り上司からの信頼も厚かった。ある日魔が差したのか顧客から預かったお金で、高級な化粧品を買ってしまった。後でATMから五万円を引出し返した。自分が今、何をしたのか理解した。それでも罪悪感は不思議となかった。しかし、どうして罪悪感を覚える必要があるのかと自分に問いかけ、働いて稼いだお金だし…。と言い訳をした。

 梨花が通っていた学校は、ボランティア活動に学校全体が取組んでいる。
 外国の学校に通えない子供たちに、直接寄付をするシステムが導入され、生徒側は自分が、どの国の、何という名の何歳の子供に寄付しているのかわかるのである。お礼の手紙にカラフルな絵や写真までも同封されていたのである。生徒たちは熱狂し喜んだ。

 しかし梨花は少しも喜べない。

 裕福な家庭で育ち、普通の子供ならとても賄えない金額を支援できる。一通だけ届いた手紙の言葉に『私はあなたがしてくださったことを、一生忘れません』と書いてあったのだ。勿論、誰かに教えてもらった決まり文句である。「たった6歳か7歳の子が、一生忘れてはならないような重荷を背負わせてしまった」。感謝という重荷。と考えていた。彼女の論理が歪んでいることはわかる。
学校はシステムを廃止した。

 当時の同級生は、『「思い込みが激しい」でも「のめりこみやすい」でもなく、「正義の人」だった』と評価している。

 結婚して専業主婦になった。賢くやりくりし平凡な暮らしを希望したが、夫は仕事で忙しく家庭のことには無関心。夫との淡々とした日常生活や違和感が、家庭より外に出て働くきっかけとなる。
 以上が、犯罪に手を染め不倫と横領を犯すまでの「あらすじ」です。

 その後物語は、犯罪の手口や動機、自己満足の展開は息継ぎが出来ないくらい早く苦しい。どこまで墜落していくのか、興味はあるがスリリング過ぎてドキドキし眠れない。そして彼女は生き場所を失った。そんな彼女にも生き場所があると思う。それはしばらく安住できる高い塀の向こうかな!

 実におもしろい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー(推理小説)
感想投稿日 : 2020年6月28日
読了日 : 2020年6月28日
本棚登録日 : 2020年5月28日

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